(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

文字の大きさ
上 下
26 / 29

26

しおりを挟む
(ベッツィー視点)


 海を見下ろせる小高い丘にお墓を建てた。周りにはたくさんの花を植え、仲間達が寂しくないようにひとつのお墓に12人分の髪を納める。

「これで皆一緒だよ。もちろん、わたしも死んだらここに入るからさ。皆の分も生きて・・・・・・天寿を全うしたらそっちに行く。だから皆で待っててよ。筋トレでもしながらさ」
 わたしはお墓に向かって話しかける。

「ありがとう」
 そんな仲間達の声が聞こえたような気がした。





 まとまったお金はもらったけれど、なにか仕事を探さないと・・・・・・わたしができることってなんだろう・・・・・・そうだ! 

 古い3階建ての建物を安く買い、1階に護身術教室を開いた。会員は主に大人の女性で、徐々に娘も連れて母娘で来てくれる人が増えていく。簡単なフィットネス器具なども考案し設置していくと、ダイエット目的に通う男性も来るようになった。

「ベッツィー先生。始めてから3ヶ月で4キロも減りました。なにをしてもダメだったのに、凄いです! 今じゃ、妻も『昔みたいにかっこいい』なぁーーんて言ってくれて、夫婦仲が最高に良くなりました」
 最初に来てくれた男性会員は、中年の小太りな体型だったが少しづつ筋肉がついてきた。

 彼はこの辺りの商店街の会長もしているので、いたるところで体型の変化自慢をしてくれるだけで、とんでもなく集客力があがった。とてもありがたい会員様なのだ。

「あっははは。それは良かったですね。きっと、もっと痩せますよ。そしてもっと愛されちゃうかも。今度は奥さんも連れて来てくださいよ。息子さんも娘さんもご一緒に来ていただけると嬉しいです」
 わたしはさらに商店街会長家族全員の会員化を目指す。すっかり経営者らしくなってきたものだな、と思う。

「ですね。妻も誘ってみますよ。ここは家族で参加できるからとてもいい」

「お願いしまぁす。家族割引も導入しますので、ご検討くださいね」

 こうして、わたしの護身術教室は健康スポーツクラブ的な存在となり、多くの会員が通う場所となったのである。

 




「すいません。ここに入会したいのですが、この娘とあたくしで会費はいくらになりますか?」
 ある日、聞き覚えのある声の女性が少女を連れてやって来た。

「ようこそ、いらっしゃいませ。会費ですね? ん? ・・・・・・会費は無料ですわ。お久しぶりですね、お母様」
 わたしはすぐにお母様だとわかったのに、あちらは全く信じられない様子でわたしを見ていた。

「え? えぇーー。ちょっと、待って? どなたかしら? ベッツィーに似ているようですけれど、こんなにムキムキの筋肉が付いているはずがないし。顔もずいぶん痩せて鋭い目つきだし・・・・・・あなたはどう見ても女性騎士より強そうよ? あたくしの娘は、もっとぽっちゃりしていて怠惰で嘘つきな・・・・・・」
 仰天しながらわたしを否定する言葉を並べようとするから、思わずはっ倒しそうになったけれどグッと堪えた。このかんじの空気の読めなさと、迂闊な発言を安易にするところは昔から変わっていないようだ。

「うふふ。そうですねぇ。そのへんの騎士よりは実戦能力は高いかも。ですが正真正銘、あなたの娘のベッツィーですわ。けれど、中身はすっかり生まれ変わっています。ところで、お母様はなにをして暮らしていらっしゃるの? それからこの娘は誰ですか?」

 思いがけず再会を果たしたわたし達は、今までのことをお互い話し合い、一緒に住むことを決めた。

「2階はわたしが使っているので、3階でその娘と暮らしたらいかがですか? その娘を一緒に立派に育てましょうよ。きっと、わたし達はとてもいい家族になれます」






 それからわたしとお母様は一緒に暮らしている。その少女は正式にわたしの養女になり、ジェラルディンと名付けられた。わたしの親友の名前だ。この娘を大事に育てることは、仲間への供養にもなる気がした。

 ジェラルディンにわたしの護身術の全てを教え、今では汗を流しに頻繁にやって来るジョバンナ小隊長も、なぜか投げナイフの特訓をジェラルディンにさせている。

「ジョバンナ小隊長、ジェラルディンにさせようとしてませんよねぇ? あの子は危険な目に遭わせたくないですよ。それに真っ直ぐな性格のとても良い子です」

「もちろんさ。とても良い子だし素質がある」

「・・・・・・なんのですか? 事と次第によっては、いくらジョバンナ小隊長でも許しませんよっ」
 わたしは思わず威嚇する。

「ジェラルディンを侍女にさせたいな、と思ってね。淑女教育も受けさせて一代限りの男爵位を授ける。それで、聖女様がお産みになった2番目のお嬢様サンドリーヌ様の護衛侍女に推薦したい。これはとても名誉なことだよ」

「聖女様・・・・・・だって、あの方は、わたしやお母様を嫌いですよね? そんなわたし達が養女として育てたジェラルディンを、サンドリーヌ嬢のお側に置くことをお許しになりますか?」

「実は、これは聖女様からのお願いなんだ」
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました

甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです

冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。 しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。 アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。 後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。 婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。 そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。 仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。 エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

処理中です...