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※こちら更生してしまいました。その為、残酷シーンを求める方向きではないかも💦 申し訳ないです。……精神的に追い詰める系の断罪にはなっております。
(ロクサーヌ視点)
奴隷オークションで売りに出されたが、あたくしを買ったのはレストランにいた女だ。あのお人よしの男の妻だ。馬車に乗せられてたどり着いたのはとても大きなお屋敷だ。
「私はメイド頭です。これから女主人のところに連れて行きますので、丁寧にご挨拶するように」
厳めしい顔つきの女はかなりの歳だが、背筋をピンと伸ばし歩き方も優雅だった。これは高位貴族の屋敷にしかいないタイプの使用人だ。
「よく来ましたね。さぁ、お前の名前は?」
「あたくしは……」
言いかけたあたくしの頬を、いきなり殴り飛ばしたのは側に仕えていた侍従だ。
「まずはひざまづけ! 顔をあげてよし、と言われるまでは決して顔を見るな」
「は、はい」
あたくしは床に頭を擦りつけて、決して顔をあげないようにする。
「顔を上げよ」
言われて初めて、その先にある姿にぎょっとする。
「え? カプシーヌ?」
「違う。この方はカプシーヌ様ではない。ただ、お前がそう見えるように暗示をかけさせてもらった。これから自分が虐げられる経験をしてもらうだけのことだ。お前が大嫌いな相手からな」
「さぁ、答えなさい。お前の名前は?」
「あたくしは、ロクサーヌです」
「違うわよ。ろくでなしのロクサーヌだから、今日からお前は『ろくでなし』よ。ねぇ、あの頃に戻りましょうか? あなたは侯爵夫人になる為に勉強させられていたじゃない? もの覚えの悪いお馬鹿さん。今からそれを毎日するの」
「な、なんの為にですか?」
「言ったでしょう? わたくしの孫の気持ちを疑似体験なさい」
日の当たらない狭い部屋に押し込まれて、いない者として扱われた。あの当時の侯爵夫人教育が繰り返される。少しでも間違えると鞭がとんできて「無能だ、馬鹿だ」と罵られた。「ろくでなし」と半年の間、耳元で何度も言われると本当にそんな気がしてくる。
「ろくでなし、なぜこんな簡単な刺繍や縫物もできないのよ? やる気がないのか馬鹿なのか、いったいどちらなの? 子供だってまだましよ。ろくでなしは、なんの価値もないわ」
「そ、それはあんまりな言い方です。あたくしだって一生懸命にやっているんです」
「一生懸命やってその程度? なおさら悪いじゃない? ろくでなしは、なにをやってもまともにできない。誰からも認めてもらえないのよ。いい? お前には価値がないの」
度々、繰り返されるその言葉はどこかで聞いた響きだ。あたくしがフランソワーズにぶつけた言葉に重なる。言う方はそれほど酷いと思っていなくても、言われた方からしてみればこれは精神的虐待そのものだ。
(存在を否定されるのはこれほど辛いものなんだ。あたくしって女は、なんという愚かなことを……)
馬鹿でのろまでろくでなしのロクサーヌ、そんな言葉が頭の中にぐるぐると渦巻く。
(あたくしは生きていていいのだろうか? 生きているべきじゃない?)
絶えず自問自答してフランソワーズのことを思い、これが娘に与えた苦痛なのだと実感した。2年もそれを味わった頃には、自分自身に対する嫌悪感で鏡を見るのも嫌になった。
「娘に謝りたいです。自分に対する劣等感から解放される為だけに、フランソワーズを虐げたんです」
あたくしはたった2年でもこれほど辛かった。フランソワーズはもっと長い時間虐げられていたのに。実の母親から受けた仕打ちに、あの子の心はどれほど壊れたか……。
「あたくしを死刑にしてください。大変な罪を犯しました」
その願いはあっけなく断られた。
「それはできません。国王陛下からの恩赦が出されました。聖女様夫妻に男の子が誕生されたのです。少しばかりだが市井で生活するのに金を渡そう。それで住まいを借り、つつましく生きなさい」
そう言われても後悔で生きる気力もない。解放されてすぐに見つけた適当な湖にゆっくりと身を沈め、死のうとすると妖精が現れた。あの七色の妖精達だった。
「なんでここに? ここはリュシュパン公爵家の湖じゃないわよ」
「僕たちは水の妖精だからね。水があるところにはどこにでも現れるよ。ここで死んだら水が汚れる。だってお前はフランソワーズを虐めた張本人なんだからさぁ」
「そうよ。自分から死ぬなんて間違っているわよ。生きて償え」
「償えって誰に? もうフランソワーズにも会えないし、家族はバラバラよ」
「おばさん、目は見えている? この世には不幸な育ち方をした子供達があふれているじゃない?」
わたしはあの2年間で、刺繍と裁縫だけはかなり上達した。仕立て屋の針子として雇ってもらい、真面目に働くとそれなりに生活できることも学んだ。もちろん、以前のような贅沢はできない。
小さなアパートで、フランソワーズに少しだけ似た顔立ちの少女と住むようになったのは、それから半年後だ。路上で靴磨きをしていた孤児で、お腹をいつもすかせて道で寝ていた子供だ。
読み書きや刺繍、裁縫などを教えながら暮らす日々は、こんなあたくしでも良いことができるという充実感で満たされていく。こんなことであたくしの罪は消えないけれど『死ぬな』と、言った妖精達は今ではたまに会いに来て、楽しい情報をくれるのだ。
「ほら、おばさんの孫が歩くようになったよ。その洗面器の水面をみてごらん」
見ると、淡い水色の髪瞳の赤ちゃんがよちよちと歩いている姿が見えた。
かわいい、自然に口からその言葉が出た。妖精達がにこにこと笑った。
「でしょう? とっても美男子になるのよ。うふふふ」
「そうだよ。まだまだ、フランソワーズには子供が生まれるよ」
「あぁ、そうだ。もう一人の娘も頑張っているみたい。そのうち会えるよ」
そんな言葉を残して妖精は消えたのだった。
(ロクサーヌ視点)
奴隷オークションで売りに出されたが、あたくしを買ったのはレストランにいた女だ。あのお人よしの男の妻だ。馬車に乗せられてたどり着いたのはとても大きなお屋敷だ。
「私はメイド頭です。これから女主人のところに連れて行きますので、丁寧にご挨拶するように」
厳めしい顔つきの女はかなりの歳だが、背筋をピンと伸ばし歩き方も優雅だった。これは高位貴族の屋敷にしかいないタイプの使用人だ。
「よく来ましたね。さぁ、お前の名前は?」
「あたくしは……」
言いかけたあたくしの頬を、いきなり殴り飛ばしたのは側に仕えていた侍従だ。
「まずはひざまづけ! 顔をあげてよし、と言われるまでは決して顔を見るな」
「は、はい」
あたくしは床に頭を擦りつけて、決して顔をあげないようにする。
「顔を上げよ」
言われて初めて、その先にある姿にぎょっとする。
「え? カプシーヌ?」
「違う。この方はカプシーヌ様ではない。ただ、お前がそう見えるように暗示をかけさせてもらった。これから自分が虐げられる経験をしてもらうだけのことだ。お前が大嫌いな相手からな」
「さぁ、答えなさい。お前の名前は?」
「あたくしは、ロクサーヌです」
「違うわよ。ろくでなしのロクサーヌだから、今日からお前は『ろくでなし』よ。ねぇ、あの頃に戻りましょうか? あなたは侯爵夫人になる為に勉強させられていたじゃない? もの覚えの悪いお馬鹿さん。今からそれを毎日するの」
「な、なんの為にですか?」
「言ったでしょう? わたくしの孫の気持ちを疑似体験なさい」
日の当たらない狭い部屋に押し込まれて、いない者として扱われた。あの当時の侯爵夫人教育が繰り返される。少しでも間違えると鞭がとんできて「無能だ、馬鹿だ」と罵られた。「ろくでなし」と半年の間、耳元で何度も言われると本当にそんな気がしてくる。
「ろくでなし、なぜこんな簡単な刺繍や縫物もできないのよ? やる気がないのか馬鹿なのか、いったいどちらなの? 子供だってまだましよ。ろくでなしは、なんの価値もないわ」
「そ、それはあんまりな言い方です。あたくしだって一生懸命にやっているんです」
「一生懸命やってその程度? なおさら悪いじゃない? ろくでなしは、なにをやってもまともにできない。誰からも認めてもらえないのよ。いい? お前には価値がないの」
度々、繰り返されるその言葉はどこかで聞いた響きだ。あたくしがフランソワーズにぶつけた言葉に重なる。言う方はそれほど酷いと思っていなくても、言われた方からしてみればこれは精神的虐待そのものだ。
(存在を否定されるのはこれほど辛いものなんだ。あたくしって女は、なんという愚かなことを……)
馬鹿でのろまでろくでなしのロクサーヌ、そんな言葉が頭の中にぐるぐると渦巻く。
(あたくしは生きていていいのだろうか? 生きているべきじゃない?)
絶えず自問自答してフランソワーズのことを思い、これが娘に与えた苦痛なのだと実感した。2年もそれを味わった頃には、自分自身に対する嫌悪感で鏡を見るのも嫌になった。
「娘に謝りたいです。自分に対する劣等感から解放される為だけに、フランソワーズを虐げたんです」
あたくしはたった2年でもこれほど辛かった。フランソワーズはもっと長い時間虐げられていたのに。実の母親から受けた仕打ちに、あの子の心はどれほど壊れたか……。
「あたくしを死刑にしてください。大変な罪を犯しました」
その願いはあっけなく断られた。
「それはできません。国王陛下からの恩赦が出されました。聖女様夫妻に男の子が誕生されたのです。少しばかりだが市井で生活するのに金を渡そう。それで住まいを借り、つつましく生きなさい」
そう言われても後悔で生きる気力もない。解放されてすぐに見つけた適当な湖にゆっくりと身を沈め、死のうとすると妖精が現れた。あの七色の妖精達だった。
「なんでここに? ここはリュシュパン公爵家の湖じゃないわよ」
「僕たちは水の妖精だからね。水があるところにはどこにでも現れるよ。ここで死んだら水が汚れる。だってお前はフランソワーズを虐めた張本人なんだからさぁ」
「そうよ。自分から死ぬなんて間違っているわよ。生きて償え」
「償えって誰に? もうフランソワーズにも会えないし、家族はバラバラよ」
「おばさん、目は見えている? この世には不幸な育ち方をした子供達があふれているじゃない?」
わたしはあの2年間で、刺繍と裁縫だけはかなり上達した。仕立て屋の針子として雇ってもらい、真面目に働くとそれなりに生活できることも学んだ。もちろん、以前のような贅沢はできない。
小さなアパートで、フランソワーズに少しだけ似た顔立ちの少女と住むようになったのは、それから半年後だ。路上で靴磨きをしていた孤児で、お腹をいつもすかせて道で寝ていた子供だ。
読み書きや刺繍、裁縫などを教えながら暮らす日々は、こんなあたくしでも良いことができるという充実感で満たされていく。こんなことであたくしの罪は消えないけれど『死ぬな』と、言った妖精達は今ではたまに会いに来て、楽しい情報をくれるのだ。
「ほら、おばさんの孫が歩くようになったよ。その洗面器の水面をみてごらん」
見ると、淡い水色の髪瞳の赤ちゃんがよちよちと歩いている姿が見えた。
かわいい、自然に口からその言葉が出た。妖精達がにこにこと笑った。
「でしょう? とっても美男子になるのよ。うふふふ」
「そうだよ。まだまだ、フランソワーズには子供が生まれるよ」
「あぁ、そうだ。もう一人の娘も頑張っているみたい。そのうち会えるよ」
そんな言葉を残して妖精は消えたのだった。
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