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(ベッツィー視点)
わたしは奴隷オークション会場に連れて行かれ、下着のような格好で立たされジロジロと客達から品定めをされた。特に男達の視線がねっとりとまつわりつき気持ち悪い。
「1万ダラからです。さぁ、この女を買いたい方は値を競ってくださぁいーー」
「5万ダラだ!」
女性のきっぱりとした声に誰も異論を挟まない。
「では、5万ダラでどうぞお持ち帰りくださいーー」
まるで、野菜や果物のように雑に売られていく自分に、情けない思いで涙がにじむ。
「さぁ、この馬車に乗って。少しこのわたしと話をしよう」
その女性は見覚えがある。そうだ、あのレストランで会った女性だ。子供達の母親で人の良い夫を持つ女性・・・・・・のはずが、今はどう見ても家庭的な雰囲気ではない。
「なにを話すのよ? あのレストランのことは、お父様の言い出したことでわたしの責任じゃないわ」
「そうかな? お前も喜んであそこの料理を食べたのなら同罪だ。でも、今はそんなことはどうでも良い。お前には四つの選択肢が与えられる。一つ目は、娼館で娼婦として働くこと。二つ目は、鉱山で貴石運びをすること」
「どれも最悪な選択肢だわ。その二つは絶対に嫌。そもそも、あんたは誰よ? 偉そうにそんなことを言うなんて・・・・・・」
わたしの頬に平手が往復で飛んでくる。ものすごく痛いし、女の力には思えないほど強い。
「口の利き方に気をつけろ! わたしは、特殊部隊のジョバンナ小隊長だ。では、話を戻そう。三つ目が、あの最後に行った仕立屋の住み込み針子になること。四つ目は、わたしの部下として訓練を受けることだ」
(小隊長って・・・・・・まずい・・・・・・この女には下手に出ないといけないかも)
わたしは言葉遣いを丁寧語に切り替える。もう、ぶたれるのは嫌だ。
「わたしは、あの仕立屋で無理矢理、他人のワンピースを持ってきました。きっと、恨んでいるしあんなとことで働いたら虐められそうなので嫌です」
「三つ目が一番まともなのに嫌だ、とはやっぱりお前はバカなんだな。まぁ、いい。もうひとつ選択肢を増やそう。医学に貢献する為に自分の命を提供すること。さぁ、どうかな?」
「・・・・・・わたしは、あなたの部下になります」
「では、今から訓練場に連れて行く。そこで半年ほど鍛えられて来い」
「は、はい」
「途中で脱落した場合は、娼婦か炭鉱婦あるいは医学に貢献コースだ!」
「ひっ! ひとでなし・・・・・・嘘ですよね? わたしは元貴族ですよ」
「そんなことは関係ない。お前の父親も兄も地獄に送られた。お前とお前の母親は少し甘めな処置になったのは、我が国の第一王女殿下が嫁ぎ先で懐妊されたからだ。こういった場合、安産を願い女性犯罪者の罪は軽減される」
「これが甘い? 全然甘くないわよ」
「選択肢を与えられただけで充分甘いと思う。死ぬ以外の選択肢があることをありがたく思え」
大雨が降っている。ここは森のなかで傘なんてないし、レインコートもない。わたしは迷彩色の服を着て、頭や背中に木の枝を括り付けている。顔には泥を塗りわざと汚し、雨でぬかるんだ地面に這いつくばり移動する。
寒いし汚いし、地面に這っている虫どもが目や口に飛び込んでこようとした。
(気持ち悪い・・・・・・なんでこんなことしなきゃなんないのよ?)
そう思うと同時にあの女の言葉が頭のなかで繰り返される。
「娼婦か炭鉱婦か医学に・・・・・・」
思わずブルブルと首を振る。
(絶対、嫌よ。こっちの方がマシだわ)
毎日、少量づつ毒を飲み抗体をつくる。初めは喉も胃も痛いし、頭痛と吐き気で寝込んでしまう。けれど、ほんの少しづつそれは増やされ、身体を慣らしていくと幾分楽になってきた。
格闘技は女性でも楽に男を倒せる技を教わる。襟首、下顎、鎖骨、首静脈、手根骨、みぞおち、手首関節などの弱点を攻撃する方法だ。これを習得しなければ任務先で生き延びることはできない、と言われれば命を守る為に必死で練習した。
(特殊部隊か・・・・・・なにか響きがかっこいいかも)
毎日毎日、訓練していくと思考回路が全く変わってくる。筋トレをしないと落ち着かないし、暇があれば走って汗を流したい。
(おかしい・・・・・・なんだか・・・・・・楽しい?)
ナイフ投げ・吹き矢・弓なども教わり一通りの技が身につくと、仲間と技を競い夕飯のデザートを賭けた。
「今日のデザートのプリンは貰うわよ」
「ふふふ。簡単には負けないわよ」
「あら、わたしも負けませんわ」
同じく訓練をする女性達は皆訳ありだ。
「あたしらは死んでも、墓も供養してくれる者もいないからさ。せめて仲間が死んだ時は、道ばたの花でもいいから添えようね」
仲間の一人が言って、わたしは初めて後悔した。
(なぜ、お針子を選ばなかったのだろう。あの仕立屋で働くのが一番まともな選択肢だったのに。くだらない元貴族のプライドが邪魔したんだ)
死んでも骨を拾う者はいない、か・・・・・・わたしは本当に愚か者だ。それでも、死にたくないからここで頑張るしかない。
わたしは初めて文字通り生きる為に頑張った。初めての頑張りが特殊部隊の特訓・・・・・・現実的じゃないし、ばかみたいだ。
もしわたしがカステジャノス侯爵令嬢だった時に、『お前は特殊部隊の隊員になって死ぬんだよ。そして墓も建てられない』と、言われたら大笑いしたことだろう。
でも、今はこれが現実なんだ・・・・・・
わたしは奴隷オークション会場に連れて行かれ、下着のような格好で立たされジロジロと客達から品定めをされた。特に男達の視線がねっとりとまつわりつき気持ち悪い。
「1万ダラからです。さぁ、この女を買いたい方は値を競ってくださぁいーー」
「5万ダラだ!」
女性のきっぱりとした声に誰も異論を挟まない。
「では、5万ダラでどうぞお持ち帰りくださいーー」
まるで、野菜や果物のように雑に売られていく自分に、情けない思いで涙がにじむ。
「さぁ、この馬車に乗って。少しこのわたしと話をしよう」
その女性は見覚えがある。そうだ、あのレストランで会った女性だ。子供達の母親で人の良い夫を持つ女性・・・・・・のはずが、今はどう見ても家庭的な雰囲気ではない。
「なにを話すのよ? あのレストランのことは、お父様の言い出したことでわたしの責任じゃないわ」
「そうかな? お前も喜んであそこの料理を食べたのなら同罪だ。でも、今はそんなことはどうでも良い。お前には四つの選択肢が与えられる。一つ目は、娼館で娼婦として働くこと。二つ目は、鉱山で貴石運びをすること」
「どれも最悪な選択肢だわ。その二つは絶対に嫌。そもそも、あんたは誰よ? 偉そうにそんなことを言うなんて・・・・・・」
わたしの頬に平手が往復で飛んでくる。ものすごく痛いし、女の力には思えないほど強い。
「口の利き方に気をつけろ! わたしは、特殊部隊のジョバンナ小隊長だ。では、話を戻そう。三つ目が、あの最後に行った仕立屋の住み込み針子になること。四つ目は、わたしの部下として訓練を受けることだ」
(小隊長って・・・・・・まずい・・・・・・この女には下手に出ないといけないかも)
わたしは言葉遣いを丁寧語に切り替える。もう、ぶたれるのは嫌だ。
「わたしは、あの仕立屋で無理矢理、他人のワンピースを持ってきました。きっと、恨んでいるしあんなとことで働いたら虐められそうなので嫌です」
「三つ目が一番まともなのに嫌だ、とはやっぱりお前はバカなんだな。まぁ、いい。もうひとつ選択肢を増やそう。医学に貢献する為に自分の命を提供すること。さぁ、どうかな?」
「・・・・・・わたしは、あなたの部下になります」
「では、今から訓練場に連れて行く。そこで半年ほど鍛えられて来い」
「は、はい」
「途中で脱落した場合は、娼婦か炭鉱婦あるいは医学に貢献コースだ!」
「ひっ! ひとでなし・・・・・・嘘ですよね? わたしは元貴族ですよ」
「そんなことは関係ない。お前の父親も兄も地獄に送られた。お前とお前の母親は少し甘めな処置になったのは、我が国の第一王女殿下が嫁ぎ先で懐妊されたからだ。こういった場合、安産を願い女性犯罪者の罪は軽減される」
「これが甘い? 全然甘くないわよ」
「選択肢を与えられただけで充分甘いと思う。死ぬ以外の選択肢があることをありがたく思え」
大雨が降っている。ここは森のなかで傘なんてないし、レインコートもない。わたしは迷彩色の服を着て、頭や背中に木の枝を括り付けている。顔には泥を塗りわざと汚し、雨でぬかるんだ地面に這いつくばり移動する。
寒いし汚いし、地面に這っている虫どもが目や口に飛び込んでこようとした。
(気持ち悪い・・・・・・なんでこんなことしなきゃなんないのよ?)
そう思うと同時にあの女の言葉が頭のなかで繰り返される。
「娼婦か炭鉱婦か医学に・・・・・・」
思わずブルブルと首を振る。
(絶対、嫌よ。こっちの方がマシだわ)
毎日、少量づつ毒を飲み抗体をつくる。初めは喉も胃も痛いし、頭痛と吐き気で寝込んでしまう。けれど、ほんの少しづつそれは増やされ、身体を慣らしていくと幾分楽になってきた。
格闘技は女性でも楽に男を倒せる技を教わる。襟首、下顎、鎖骨、首静脈、手根骨、みぞおち、手首関節などの弱点を攻撃する方法だ。これを習得しなければ任務先で生き延びることはできない、と言われれば命を守る為に必死で練習した。
(特殊部隊か・・・・・・なにか響きがかっこいいかも)
毎日毎日、訓練していくと思考回路が全く変わってくる。筋トレをしないと落ち着かないし、暇があれば走って汗を流したい。
(おかしい・・・・・・なんだか・・・・・・楽しい?)
ナイフ投げ・吹き矢・弓なども教わり一通りの技が身につくと、仲間と技を競い夕飯のデザートを賭けた。
「今日のデザートのプリンは貰うわよ」
「ふふふ。簡単には負けないわよ」
「あら、わたしも負けませんわ」
同じく訓練をする女性達は皆訳ありだ。
「あたしらは死んでも、墓も供養してくれる者もいないからさ。せめて仲間が死んだ時は、道ばたの花でもいいから添えようね」
仲間の一人が言って、わたしは初めて後悔した。
(なぜ、お針子を選ばなかったのだろう。あの仕立屋で働くのが一番まともな選択肢だったのに。くだらない元貴族のプライドが邪魔したんだ)
死んでも骨を拾う者はいない、か・・・・・・わたしは本当に愚か者だ。それでも、死にたくないからここで頑張るしかない。
わたしは初めて文字通り生きる為に頑張った。初めての頑張りが特殊部隊の特訓・・・・・・現実的じゃないし、ばかみたいだ。
もしわたしがカステジャノス侯爵令嬢だった時に、『お前は特殊部隊の隊員になって死ぬんだよ。そして墓も建てられない』と、言われたら大笑いしたことだろう。
でも、今はこれが現実なんだ・・・・・・
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