(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

文字の大きさ
上 下
16 / 29

16

しおりを挟む
(カステジャノス侯爵視点)


 予約をしなければ食べられない有名レストランで食事をしたいと思った。平民になったら、このような場所にはなかなか行かれないと思うからこそ、是非とも行きたくなる。もちろん、予約などはしていない。

「いきなりいらっしゃられても困ります。本日は予約でいっぱいで、皆様半年から1年待ちでこちらに来てくださいます」

「半年も待てるか! 今、どうしても食べねばならんのだ。なぜなら、わしには時間がない。だから優先させろ」

「時間がない?」

「うむ。実はな、わしは余命わずかで重度の病を抱えておる。だから、死ぬ前にここで食べなければ後悔で安らかにあの世にいくこともできん」

「そうおっしゃられても・・・・・・」
 レストランのオーナーは困り果てているが、知ったことか。

「本当にそうなのですか? それはお気の毒ですね。わたしどもは、毎年ここで記念日を楽しんでいる者ですが、お譲りしますよ」
 いかにも平民というようなパッとしない男が、人の好さそうな笑みを浮かべていた。

「セルジュ様、それでは奥様との結婚記念日が台無しになってしまいますよ。坊ちゃんのお誕生日祝いも兼ねていますでしょう? 毎年こちらでやらせていただいておりますのに」
 レストランオーナーが余計な口をはさむ。

「いいんだよ。わたしの家族は健康で来年があるからね。でもそちらの方は重い病で、余命があとわずかなのでしょう?」

「そうとも。わしは、もうすぐ死んでしまう深刻な病気なのだ。結婚記念日などより、よほど優先されるべきだ」

「わたし、楽しみにしていたのに・・・・・・」
 父親セルジュと母親の陰に隠れていた少女が、がっかりした声を出した。

「僕もだよ。だって今日は僕の誕生日でもあるのに」
 少年もセルジュの子供なのだろう。涙ぐんでいるから鬱陶しいったらない。
 
「なんて思いやりのない子供達だ。いいか? 年寄りは敬うものだ。お前の誕生日など関係ないわ。結婚記念日と子供の誕生日祝いが一緒なんて、結婚する前に仕込んだ子供か? ふしだらな」

「あなた、帰りましょう。この方が話す言葉はもう聞きたくありませんわ。貴族様なのでしょうけれど、浅ましく自分勝手ですわ。ひと言だけ申し上げますが、この子は結婚1年のちょうど結婚した日に、たまたま産まれた奇跡の子ですわ。あなたにふしだらなどと言われる筋合いはございません」

 気の強い母親は、子供を急かしてその場を去っていく。

(なんたる無礼者だ。以前なら絶対に許しておかないが、もう平民になるのだしここは深追いをするべきではないな。わしの寛容さに感謝しろ)

 わしらは、そいつらが予約していたご馳走を、まんまと食べることができた。お祝いの特製ケーキまでついて、そこには”結婚記念日&誕生日祝”の文字がチョコで書かれていた。

「ふん! 幸せそうな奴らを見ていると腹が立つ」
 その文字の部分が真っ二つになるように、ケーキにナイフをいれ妻や子供達に切り分けてやった。

「あら、おいしいわね」
 と、妻が喜ぶ。

「さすが一流店ね」
 と、娘。

「僕達はもうここには来られないのかな。しっかり食べて記憶に残さなくっちゃ」
 息子はガツガツとご馳走にかぶりついた。

 わしらは、あのセルジュという男のお陰で一流店の料理が食べられて、本当に運がいい。
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました

甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

処理中です...