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(カステジャノス侯爵視点)
予約をしなければ食べられない有名レストランで食事をしたいと思った。平民になったら、このような場所にはなかなか行かれないと思うからこそ、是非とも行きたくなる。もちろん、予約などはしていない。
「いきなりいらっしゃられても困ります。本日は予約でいっぱいで、皆様半年から1年待ちでこちらに来てくださいます」
「半年も待てるか! 今、どうしても食べねばならんのだ。なぜなら、わしには時間がない。だから優先させろ」
「時間がない?」
「うむ。実はな、わしは余命わずかで重度の病を抱えておる。だから、死ぬ前にここで食べなければ後悔で安らかにあの世にいくこともできん」
「そうおっしゃられても・・・・・・」
レストランのオーナーは困り果てているが、知ったことか。
「本当にそうなのですか? それはお気の毒ですね。わたしどもは、毎年ここで記念日を楽しんでいる者ですが、お譲りしますよ」
いかにも平民というようなパッとしない男が、人の好さそうな笑みを浮かべていた。
「セルジュ様、それでは奥様との結婚記念日が台無しになってしまいますよ。坊ちゃんのお誕生日祝いも兼ねていますでしょう? 毎年こちらでやらせていただいておりますのに」
レストランオーナーが余計な口をはさむ。
「いいんだよ。わたしの家族は健康で来年があるからね。でもそちらの方は重い病で、余命があとわずかなのでしょう?」
「そうとも。わしは、もうすぐ死んでしまう深刻な病気なのだ。結婚記念日などより、よほど優先されるべきだ」
「わたし、楽しみにしていたのに・・・・・・」
父親と母親の陰に隠れていた少女が、がっかりした声を出した。
「僕もだよ。だって今日は僕の誕生日でもあるのに」
少年もセルジュの子供なのだろう。涙ぐんでいるから鬱陶しいったらない。
「なんて思いやりのない子供達だ。いいか? 年寄りは敬うものだ。お前の誕生日など関係ないわ。結婚記念日と子供の誕生日祝いが一緒なんて、結婚する前に仕込んだ子供か? ふしだらな」
「あなた、帰りましょう。この方が話す言葉はもう聞きたくありませんわ。貴族様なのでしょうけれど、浅ましく自分勝手ですわ。ひと言だけ申し上げますが、この子は結婚1年後のちょうど結婚した日に、たまたま産まれた奇跡の子ですわ。あなたにふしだらなどと言われる筋合いはございません」
気の強い母親は、子供を急かしてその場を去っていく。
(なんたる無礼者だ。以前なら絶対に許しておかないが、もう平民になるのだしここは深追いをするべきではないな。わしの寛容さに感謝しろ)
わしらは、そいつらが予約していたご馳走を、まんまと食べることができた。お祝いの特製ケーキまでついて、そこには”結婚記念日&誕生日祝”の文字がチョコで書かれていた。
「ふん! 幸せそうな奴らを見ていると腹が立つ」
その文字の部分が真っ二つになるように、ケーキにナイフをいれ妻や子供達に切り分けてやった。
「あら、おいしいわね」
と、妻が喜ぶ。
「さすが一流店ね」
と、娘。
「僕達はもうここには来られないのかな。しっかり食べて記憶に残さなくっちゃ」
息子はガツガツとご馳走にかぶりついた。
わしらは、あのセルジュという男のお陰で一流店の料理が食べられて、本当に運がいい。
予約をしなければ食べられない有名レストランで食事をしたいと思った。平民になったら、このような場所にはなかなか行かれないと思うからこそ、是非とも行きたくなる。もちろん、予約などはしていない。
「いきなりいらっしゃられても困ります。本日は予約でいっぱいで、皆様半年から1年待ちでこちらに来てくださいます」
「半年も待てるか! 今、どうしても食べねばならんのだ。なぜなら、わしには時間がない。だから優先させろ」
「時間がない?」
「うむ。実はな、わしは余命わずかで重度の病を抱えておる。だから、死ぬ前にここで食べなければ後悔で安らかにあの世にいくこともできん」
「そうおっしゃられても・・・・・・」
レストランのオーナーは困り果てているが、知ったことか。
「本当にそうなのですか? それはお気の毒ですね。わたしどもは、毎年ここで記念日を楽しんでいる者ですが、お譲りしますよ」
いかにも平民というようなパッとしない男が、人の好さそうな笑みを浮かべていた。
「セルジュ様、それでは奥様との結婚記念日が台無しになってしまいますよ。坊ちゃんのお誕生日祝いも兼ねていますでしょう? 毎年こちらでやらせていただいておりますのに」
レストランオーナーが余計な口をはさむ。
「いいんだよ。わたしの家族は健康で来年があるからね。でもそちらの方は重い病で、余命があとわずかなのでしょう?」
「そうとも。わしは、もうすぐ死んでしまう深刻な病気なのだ。結婚記念日などより、よほど優先されるべきだ」
「わたし、楽しみにしていたのに・・・・・・」
父親と母親の陰に隠れていた少女が、がっかりした声を出した。
「僕もだよ。だって今日は僕の誕生日でもあるのに」
少年もセルジュの子供なのだろう。涙ぐんでいるから鬱陶しいったらない。
「なんて思いやりのない子供達だ。いいか? 年寄りは敬うものだ。お前の誕生日など関係ないわ。結婚記念日と子供の誕生日祝いが一緒なんて、結婚する前に仕込んだ子供か? ふしだらな」
「あなた、帰りましょう。この方が話す言葉はもう聞きたくありませんわ。貴族様なのでしょうけれど、浅ましく自分勝手ですわ。ひと言だけ申し上げますが、この子は結婚1年後のちょうど結婚した日に、たまたま産まれた奇跡の子ですわ。あなたにふしだらなどと言われる筋合いはございません」
気の強い母親は、子供を急かしてその場を去っていく。
(なんたる無礼者だ。以前なら絶対に許しておかないが、もう平民になるのだしここは深追いをするべきではないな。わしの寛容さに感謝しろ)
わしらは、そいつらが予約していたご馳走を、まんまと食べることができた。お祝いの特製ケーキまでついて、そこには”結婚記念日&誕生日祝”の文字がチョコで書かれていた。
「ふん! 幸せそうな奴らを見ていると腹が立つ」
その文字の部分が真っ二つになるように、ケーキにナイフをいれ妻や子供達に切り分けてやった。
「あら、おいしいわね」
と、妻が喜ぶ。
「さすが一流店ね」
と、娘。
「僕達はもうここには来られないのかな。しっかり食べて記憶に残さなくっちゃ」
息子はガツガツとご馳走にかぶりついた。
わしらは、あのセルジュという男のお陰で一流店の料理が食べられて、本当に運がいい。
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