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(カステジャノス侯爵夫人視点)

「三日後には、迎えの馬車をカステジャノス侯爵家に向かわせるので、荷物をまとめておくように」
と、イズルダリア国王があたくし達に言った。

「迎えの馬車ってなんですか? どこにあたくし達は連れて行かれるのでしょうか?」

「それは平民が住む区域と奴隷が住む区域は分かれているゆえ、それぞれに合った場所に連れていくだけだ。もうカステジャノス侯爵家には戻れないので、必要なものはきっちり持っていくことだな」
 イズルダリア国王は冷たく言い放ち、こちらを振り向きもせず妖精を手に乗せて喜んでいる。

(忌々しい、妖精め! こんなチビのくせに、さっきまであたくしを頭痛で苦しめた)

 近くをふわふわと飛ぶ妖精の一匹を密かに手で掴み地面に叩きつけようとしたら、その妖精に触れた瞬間に手が痛み思わず「ぎゃっ」と声が出た。

「ばかな女」
「悪意をもって妖精にさわると、自分に返ってくるんだよ」
「そうだよ。妖精を傷つけることはできないんだ」
 チビ妖精どもがペチャクチャとおしゃべりをし、あたくしをバカにする。

(うるさいわよ。虫のようにブンブンと飛び回るチビ達め! こんなのが出てきたから、フランソワーズが図に乗るのよ。あんな子は無価値な、どうでもいい存在のままにしておきたかったのに)




 あたくし達は、カステジャノス侯爵家に戻り荷物をまとめるしかなかった。

「宝石とお金は必要ね。それからお化粧品と着替えのドレス。あとは下着類と・・・・・・」
 大きな旅行カバンに、たくさんの荷物を詰め込みパンパンに膨らんだ。

(これからどうなるのかしら? とても不安だわ)

「なぁ、三日後に迎えが来ると言っていたよな? わし達は、どうせ皆平民になると思う。なぜなら、今まで貴族であった者は、どんなに罪を犯しても奴隷にされた歴史はないからさ。だが、平民になれば貴族の特権がなくなり、とてもつまらない生活になると思う」

「えぇ、そうね。貴族の特権を失うのは悲しいわ」

「だからだ、今のうちにそれを満喫しようじゃないか? なくなってしまう特権だから、なくなる前に使わないともったいない」

(確かに夫の言う通りだわ。今ならまだ使える貴族の特権。あのマクシミリアン様の快気祝いには国中の貴族が来ていたけれど、平民はあたくし達が貴族でなくなったことは知らない)

 あたくし達はその三日間で、貴族の特権を使い市井で思う存分満喫することにした。話題のスイーツの店に着飾って向かい、並んでいる平民どもを押しのけて一番前に割り込む。

「並んでいるんだぞ! なんで割り込むんだよ?」

「うるさいわね。あたくし達は貴族なのよ? 平民はすっこんでいなさいよ」
 あたくしは、ことさらに美しく光るルビーの指輪を見せびらかすように、その男の目の前で手をヒラヒラとさせた。

「見なさいよ。これが貴族である証よ。こんな上等な宝石は、貴族でなければ身につけられないでしょう? ほっほっほっほっほ」

 悔しがる平民の顔が面白い。もうこんなことはできなくなるなら、せいぜい今のうちに楽しまなきゃ。





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