(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

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 それを聞いた貴族達も一斉に跪く。跪いていないのは、お父様達だけだ。

「は? 聖女様? まさか・・・・・・冗談にしてもたちが悪いわ」
 お母様は、顔をしかめる。

「いや、間違いない。偉大な治癒力を持つ伝説の聖女様に間違いない」
 大神官様はキッパリと断言した。

「それは本当ですか? なにかの間違いでは? フランソワーズにそんな価値があるなんて・・・・・・あり得ない」
 お父様も、私を公然と否定する。どうしても私に価値がないことにしたい両親に、惨めで悲しい気分になってくる。

「この者達は、まだフランソワーズをけなそうとする! とても我慢ができませんわ。罰として、貴族籍を剥奪でいかがでしょう?」
 とリュシュパン公爵夫人。
 

「もちろんですわ。このままカステジャノス侯爵家の当主ができると思ったら大間違いですわ。弟のサマンターブル国王に圧力をかけてもらいましょう。平民落ちすれば良い」

「我が息子ながら恥ずかしい奴よ。 イザック! お前は口を閉じていろ。わしからもイズルダリア国王陛下に当主の交代を願い出よう。わしがまた当主に戻り、フランソワーズとマクシミリアン様の子供が成長し、カステジャノス侯爵家を継ぐまで守っていこう。フランソワーズはきっと子宝に恵まれ、複数の子供を授かるだろうからな」
 お祖父様が期待に満ちた顔でおっしゃった。

「待ってくださいよ、お祖父様。僕だってお祖父様の可愛い孫でしょう? 父上が当主をはずされるなら、次は僕のはずでしょう?」

「そうよ! 夫の跡を継ぐのは、この息子フランクです! フランソワーズが癒やしの力を持つ聖女様なら、あたくしが先日うっかり薔薇のトゲを刺した指も治せるはず。フランソワーズ! このあたくしの小指を治してちょうだい。ほんとうに聖女だというならできるはずよ」

 私に詰め寄ってきたお母様はリュシュパン公爵夫人に遮られ、ガブリエル公爵夫人も私を守るように抱きしめた。

「ずうずしい女ですこと! なぜ、聖女様であるフランソワーズが、あなたの指など治さなくてはならないの?」
 リュシュパン公爵夫人が呆れる。

「ずうずうしい? だって、あたくしがこの子をこの世に産んでやったのよ。もし聖女様ならできるわよね? やらせたくないのは、本当は治癒力なんてないからでしょう? こちらは、嘘吐きの偽物大神官様というわけですね?」

「なんて・・・・・・罰当たりな・・・・・・やはり頭の弱い方は命知らずだな」
「大神官様に嘘吐き等と、ただでは済まされませんわよ」
 貴族達がざわつき、口々にお母様の言葉に意見を言い合った。

「このわたしを嘘吐きの偽物と言ったのか? それなら嘘で無いことを今証明しよう。皆、湖に集いなさい」






 月光のもと、そよ風でほんの少し水面を揺らせる湖。

「誰か、わかりやすい場所に怪我をした者はおるか?」

「あ、あのぉ、数日前のことですが腕に火傷を負ってしまいました」
 腕に包帯を巻いた紳士が名乗り出る。

「さぁ、聖女様。この湖に手を入れて、この者の腕を癒やしていただけますか?」

「ごめんなさい・・・・・・私、そんなことできないと思います・・・・・・だって私にそんな価値なんてあるはずないから・・・・・・」

「ぷっ。あっはははは! なにが聖女よ。ばっかみたいだわ。皆してお姉様なんかに跪いて、どうかしているわよ」

「はっはっはっは! 絶対、あの大神官の服を着た奴は偽物だろう? それか、インチキだ。くだらないよ。だって、フランソワーズはなんの取り柄もないただの厄介者だって、母上がいつも言っていたんだから・・・・・・」

 私は泣きそうになるけれど、マクシミリアン様は私の手を握って言った。

「フランソワーズ、大好きだよ。君は、わたしにとってこの世で一番価値がある大事な女性だ。あんな奴らの言うことは、少しも気にしなくていい」

「そうよ、あなたはこの世で唯一無二の存在なのよ」
 とリュシュパン公爵夫人。

「そうですとも。あなたは、もうすでにわたくしの娘ですからね。わたくしの娘のあなたは、存在しているだけで誰よりも価値があります。あの者達の言葉に惑わされる必要はありませんよ」
 ガブリエル公爵夫人は、私の背中を優しくさすった。

「フランソワーズはカプシーヌ姉上と同じ、いや、それ以上に価値がある尊い存在だよ」

「そうとも、フランソワーズは妻カプシーヌに似たわしの宝物だからな。誰よりも価値がある」





 私をこの世で一番大事な女性と言ってくれるマクシミリアン様がいて、こんなにも私の価値を信じてくださるこの方達がいる限り、私はきっと頑張れるはず・・・・・・

 私はゆっくりと湖に進み、その清らかな湖の水面にそっと触れる。そして、その男性の腕を見つめてつぶやいた。

「この方の腕が治りますように」

 しんと静まりかえったなかで、湖にはなんの変化も起こらずその男性も首を傾げる。

「ふん! やはりフランソワーズは役立たずよ」
 お母様がその言葉を吐き私を蔑んだ直後、湖が七色に輝きだしたのだった。


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