(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

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7(リュシュパン公爵夫人視点)

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(リュシュパン公爵夫人視点)

 わたくしの息子マクシミリアンの婚約者は、ベッツィー・カステジャノス侯爵令嬢である。ある日、その両親が見たこともない令嬢を連れて、いきなり屋敷に訪れた。以前から思っていたことだけれど、このカステジャノス侯爵夫妻は少々常識に欠けるところがある。

 前カステジャノス侯爵夫妻が、あまりにも立派で華があった方達だったので余計そう思うのかしら? 比べてしまうのも可哀想だけれど、ずいぶんと見劣りするし言動も迂闊で落ち着きがないと思う。

 先触れもなく来たことを詫びる言葉もなく、唐突にマクシミリアンの婚約者をベッツィーからその令嬢に替えてほしいと言い出したのには驚いた。その令嬢はベッツィーの姉、フランソワーズだと紹介されたけれど・・・・・・前カステジャノス侯爵夫人にそっくりで、淡い水色の髪と瞳は水の精オンディーヌそのものだった。幻想画家が麗しきオンディーヌを描いたような完璧な美貌なのだ。

 そのような令嬢がマクシミリアンの看病をしたいと申し出たことに嬉しく思い、その次に飛び出した言葉には心底心配した。
「・・・・・・それほど大事な命ではないので」と、自分のことを表現したのだ。

(あり得ない。これほどの美貌に恵まれた年頃の娘がこのようなことを言うなんて)

 なぜフランソワーズがそう思ったのかはわからない・・・・・・でも、この両親のもとにいさせてはいけないことだけはわかった。

 だからわたくしは、
「婚約者交代の話は了承しました。この子をここに置いてお帰りくださいませ」
と、毅然とした態度で言い放った。

(フランソワーズには優しく守ってあげる大人が必要だわ)

 多分、夫も同じ思いだったのだろう。チョコレートケーキをフランソワーズの前において、「息子を頼むよ。フランソワーズはもうこちらの家族だ。楽にして」と、言ったのだから。




 フランソワーズはとても礼儀正しく賢い子だった。それに嫌な顔ひとつせず、マクシミリアンのお世話を甲斐甲斐しくしてくれる。優しく思いやりのある性格は、マクシミリアンの心もがっちりつかんだようで、フランソワーズが来てからはふさぎ込むこともなく、病気を克服しようと前向きになってきたことが嬉しい。

 ベッツィーからフランソワーズに婚約者が変わったことは、リュシュパン公爵家にとって最良のことだったと確信した。マクシミリアンのフランソワーズを見る時のとろけるような表情に、わたくし達夫婦も微笑ましく思っていたのだ。




 ある日、敷地内の湖が七色に輝いた。なにごとかと、外に出てみればフランソワーズが湖に手を入れているところだった。もしかして・・・・・・?

「そう言えば、フランソワーズは学園に行かなかったようだけれど、病気がちだったのかしら? それとも人見知りが激しかったの?」
 そのまま近づき、わたくしはフランソワーズに尋ねる。

 珍しい髪と瞳だから虐められると思い行かなかった、と答えたフランソワーズ。なぜ虐められると思ったのかしら? そのヒントをフランソワーズが会話のなかで教えてくれた。、と言ったのだ。

・・・・・・大好きなお祖母様に似て嫌なはずはないのに、と言う。つまりは似ていなければ幸せだったのにという状況を、あの思慮に欠けるカステジャノス侯爵夫妻が作り出していたことになる。

(ふーーん。このままにしてはおけないわね)


 前カステジャノス侯爵と、その夫人カプシーヌ様のご実家ガブリエル公爵家にお知らせしなければ・・・・・・。ガブリエル公爵家現当主はカプシーヌ様の弟だし姉弟仲はとても良かったわ。


 わたくしは合計3のお手紙をその日の夜に書いたのだった。


 

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この3通はわざとです。もう1通の宛先は後で、でてきます。
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