(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

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 マクシミリアン様に会いに寝室へと向かう。そっと扉を開くと、彼はベッドに横たわったまま起きており、私をびっくりしたように見つめた。

「初めまして、あのぉ・・・・・・妹のベッツィーから婚約者が私に変わりました。姉のフランソワーズです。どうぞ、よろしくお願いします」

「婚約者が変わった? そう・・・・・・君はいいの?」
 私の口から婚約者の交代を告げると、彼はしばらく押し黙る。その後暗い声で「君はいいの?」と聞いた。

 私には、その先の言葉が想像できる。「君はいいの? 僕は嫌だよ」と。

(やっぱりマクシミリアン様も、明るくて可愛いベッツィーの方が良かったのだろう)

 私は目を伏せて泣かないように唇を噛みしめた。

 それでもその後の、「よろしく頼む」とおっしゃった優しい言葉に、私の気持ちは救われた。愛する婚約者としては受け入れられなくても、前向きに仲良くしようとしてくれる。その心が嬉しい。その声音は暖かで、ここに来て良かったと思った。




 看病といっても食事を持って行き簡単な着替えをお手伝いするぐらいで、医者でもない私にできることは限られている。けれど、マクシミリアン様が退屈な時には話相手になり、一緒に本を読んだりカードゲームなどもすると、それがなによりの治療だとリュシュパン公爵夫妻は褒めてくださった。

 起きたら一番先に会いに行き、寝る前にも「おやすみ」を言い合うこの関係が心地よい。私の姿を見ると必ず蕩けるような笑みを見せてくださるのは、今のマクシミリアン様が友人にも会えず寂しい思いをしているせいだ。決して好かれてるなんて思い上がってはいけない。だって私には価値がないんだから。




 次第に食事もマクシミリアン様と同じお部屋、ベッドの横にテーブルを設置して一緒にとるようになっていく。

「病気が移るかもしれないよ?」
「移ったっていいです。私が死んでも悲しむ人なんていません」
 マクシミリアン様は私の言葉に同情して顔を歪ませた。

「そんなことはない。わたしは君が死んだら号泣する自信があるよ」
「ふふ。優しいですね」
 マクシミリアン様は闘病生活のなかで心が弱っていらっしゃるから、私にこうおっしゃってくださるだけだ。私は自分に価値がないことを知っているのだから。

 親にも愛されない子が他の人間から愛されるわけがない。お母様が私にそうおっしゃっていたのを思い出し、また悲しい気持ちになった。

「誰からも愛されるわけがないのよ。フランソワーズにはなんの価値もないのだから」
 お母様に幼い頃に言われたその言葉は、私の心を今でも呪縛する。




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