(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

文字の大きさ
上 下
3 / 29

3

しおりを挟む
「ねぇ、お姉様! お姉様には、ちょうど婚約者がいないわね? マクシミリアン様を譲ってあげるわよ。ね、妹からのプレゼントよ。受け取ってちょうだい」

「そうよ。フランソワーズにはまだ婚約者がいないものねぇ? このような場合でもなければ、マクシミリアン様のような方があなたの婚約者になるなどあり得ないから、ベッツィーの好意に感謝しなさい」
 お母様は、「とてもいいことを思いついたわね」と、ベッツィーに微笑んだ。

「なるほど、これで問題が解決するなぁ。フランソワーズだってカステジャノス侯爵家の娘であることには変わりがないし、早速フランソワーズを連れてあちらにご挨拶あいさつに行こう」
 お父様も異論は唱えず大賛成だ。

「良かったなぁ、ベッツィー。フランソワーズもこういう時には役に立つんだな。初めて、妹がもう一人いて良かったと思ったよ」

「あたくしも、初めてフランソワーズも家族なのだ、という気がしてきましたわ。でも、フランソワーズにはちゃんとしたドレスがないわね。まぁ、ベッツィーのを着させればいいわね。新しくあつらえるのも、もったいないし」

 私はベッツィーの着古したドレスを着る。それは私にはだいぶすそが短めだったが、色は水色だったので私の髪色と瞳色には馴染なじんだ。






 
「さて、新しいベッツィーの婚約者は誰にしようか?」
 リュシュパン公爵家に向かう途中、馬車内でお父様はお母様に話しかける。

「そうですわねぇーー。なるべくカステジャノス侯爵領や王都近くに住まう高位貴族の嫡男が良いですわね。早く手を打たないと、他の令嬢にとられてしまいますわ。17歳を過ぎたら条件の良い方とは婚約できませんよ」

「だな。ベッツィの嫁ぎ先は慎重に選んでやらないとなぁ。あの子には幸せになってほしい」

 私はベッツィーの心配だけをしきりにする両親の言葉を、ボンヤリと聞きながら窓外の景色に目を向ける。陽射しに照らされた若葉が、柔らかな風にそよぐうららかな日であるのに・・・・・・私の心の空は暗くてどんよりと曇っていた。



 リュシュパン公爵家に到着し応接室に通される。広く豪華な応接室でしばらく待たされた後、リュシュパン公爵夫妻が入室していらっしゃった。

「先触れもなく突然、本日はどのようなご用向きでいらっしゃったのですか?」
 穏やかな口調で尋ねるリュシュパン公爵夫人だけれど、いきなり来たことに気分を少しだけ害していらっしゃる。

「こちらのフランソワーズはベッツィーの姉です。実はこのフランソワーズが少々まま娘でして、マクシミリアン様の婚約者に自分がどうしてもなりたいと言うので、仕方なくこちらにお願いに参りました」
 お父様はそう言いながら私をにらむ。まるで、余計なことは言うなよ、というように。

「マクシミリアンは今、大変な病気と戦っているのだぞ? このような時期に、婚約者を妹から姉に替えろというのか?」
 リュシュパン公爵はいらだちを隠さない。



「も、申し訳ありません。こ、この子がどうしてもマクシミリアン様と一緒にいたいと言うので」
 お母様は、なんとしても私のせいにしたいらしい。

「一緒にいたい? 嘘でしょう? あの子は今隔離されています。伝染する病気かもしれないのよ。看病するメイドも怖がってやめてしまうし・・・・・・」
 リュシュパン公爵夫人は項垂うなだれた。

「私に看病させていただけないでしょうか?」
 私は、ついマクシミリアン様が可哀想になってしまう。 

「感染してあなたも危険な状況になるかもしれないのよ?」

「構いません。それほど大事な命ではないので」
 ギョッとするリュシュパン公爵夫妻に、お母様達が慌てて言い訳を始めた。

「このフランソワーズは少し変わった子でして・・・・・・特に深い意味があるわけで言ったのではないのですわ・・・・・・おっほほほ」

「そうそう。フランソワーズや、なんでそんなことを言ったんだい? いつもワシらはお前を大切にしているだろう?」

 私は両親の言葉になんの反応もしなかった。なにも言わない方が良い。両親やベッツィー、兄達と揉めそうになった時は口を閉じておくのに限る。





「婚約者交代の話しは了承しましたわ。この子をここに置いてお帰りくださいませ」

 リュシュパン公爵夫人の言葉に、ホッとしたように帰っていく両親。お母様達は私を振り返りもしなかった。

 私は居心地の悪い思いで、リュシュパン公爵夫妻の前で萎縮している。

 すると、

「息子を頼むよ。フランソワーズはもうこちらの家族だ。気を楽にして」

 リュシュパン公爵は、私の前に美味しそうなチョコレートケーキをそっと置いたのだった。







しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...