(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏

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2 (ロクサーヌ視点)

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(ロクサーヌ(フランソワーズ母)視点)

 私には二人の娘がいる。けれど長女のほうは、自分の娘とは思えない。確かにこのあたくしが産んだけれど、なにひとつあたくしに似ていない。大嫌いな女に瓜二つ。それは夫イザックの母親カプシーヌよ。

 カプシーヌは社交界の重鎮で王妃殿下と親友だった。淡い水色の髪と瞳は水の妖精オンディーヌの血が混じっていると噂された。今では妖精の存在を信じる人は少ないけれど、水の妖精は透明感と繊細な美しさを持つと想像されている。そして、そのイメージにピッタリだったのがカプシーヌだ。

 珍しい水色の髪は陽射しに照らされると宝石のように七色に輝く。瞳は澄んだ湖のごとく清らかで、形の良い唇は淡いピンク。はっとするほど美しいだけじゃなくて高貴な雰囲気をも醸し出す、癪なことに教養もあり上品で、なんでもできた。

「さすがは筆頭侯爵家のカステジャノス侯爵夫人ですわ。社交界の大輪の薔薇、水の妖精オンディーヌの末裔。素敵ですねぇーー。それに比べて、令息イザック様の嫁ときたら・・・・・・」

「ロクサーヌ様でしょう? あの方は所詮、末端貴族の出身ですもの。元マルブランシュ男爵令嬢で没落貴族の娘なのに、よくカステジャノス侯爵家に潜り込めたわね?」

「すでにお腹に子どもがいたんですって。ふしだらな女!」

「ちょっと可愛いだけの令嬢に夢中になる令息も問題ありますけれどね。あのイザック様も凡庸な方よね? とてもカプシーヌ様の一人息子だなんて思えませんわ」

 カプシーヌだけが社交界でもてはやされ、それと比較されてあたくしとイザックは嘲笑われた。




「気にすることはありませんよ。ロクサーヌは頑張っているのだし、子ども達はとても可愛いわ。あなたがお嫁に来てくれてワタクシは嬉しいのですよ」

 いつもカステジャノス侯爵家の居間で慰められたけれど、あたくしはそれを見ている侍女やメイド達から蔑まれている気がして落ち着かない。

(良い人ぶって、わざとらしく侍女やメイドのいる前で慰める。本当はあたくしをばかにしているのだわ。舅のカステジャノス侯爵は、カプシーヌそっくりのフランソワーズばかりを溺愛しているし!) 





 私だってカステジャノス侯爵家の次代侯爵夫人教育係(嫁教育係)から学んで、ちゃんと勉強しているつもりだった。でも、覚えなきゃならないことが多すぎて混乱するばかりだ。

 貴族達の顔と家柄、領地の特産物やどこの派閥と仲がいいのか。表面上仲が良いのと、プライベートでも仲がいいのとを使い分ける高位貴族達の人間関係相関図は複雑だ。それを頭にたたき込むのにも一苦労で、そこに諸外国も絡んでくるとなると、膨大な情報量に頭を抱えたくなる。

(マナーやダンスはこの国イズルダリアのものだけができれば良いと思うのに、なぜ隣国サマンターブルのマナーやダンスも学ばなければならないの?)

「サマンターブル王国はカプシーヌ様の祖国ですし、あの方はサマンターブル王国のガブリエル公爵家の長女でしたからね。ガブリエル公爵家とはいろいろな事業でも提携しています。ロクサーヌ様もいずれあちらに行かれることもあるでしょうから・・・・・・」
 カステジャノス侯爵家のあたくしの教育係が、ぞっとすることを言ってくる。


(絶対に行かないわよ! カプシーヌとカステジャノス侯爵が死んだら、ガブリエル公爵家なんかとは縁切りだわ。あんな女の実家と、なんであたくしが仲良くしなければならないの!)

 そう思いながらもサマンターブル王国のマナーの講義を受けていると、側で遊ばせていたまだ幼いフランソワーズが、カプシーヌそっくりの仕草で完璧にサマンターブルのマナーを披露する。

 遊びながら講師の声を聞いただけで、そのまま再現できるなんて・・・・・・

「まぁ、フランソワーズ様は、お祖母様のカプシーヌ様の聡明さを受け継いだようですね。容姿もそっくり。これは、素晴らしい!」

(嫌よ! カプシーヌだけじゃなくてフランソワーズとも比較されるようになるの? 冗談じゃないわ)

 まもなくカプシーヌが病で亡くなり、愛妻家だったカステジャノス侯爵は意気消沈し、爵位をイザックに譲った。余生は田舎でカプシーヌとの思い出と暮らすと決めたようで、カステジャノス侯爵は表舞台から姿を消す。

 さぁ、こうなればあたくしの天下よ! 私はフランソワーズを徹底的に潰すことにした。この子が社交界に出て活躍することはダメだ。学園にも通わせてはならない。きっと公爵家令息や王子達の心を射止めて、あたくしよりも注目される。

 だから、あたくしはフランソワーズに家庭教師をつけて、外の世界には触れさせないようにしてきた。イザックもカプシーヌとずっと比較されてきて嫌だったのだろう。あたくしのそんな行動を見ていながら異論も唱えない。

(フランソワーズなんていらない。大きくなったらうんと僻地の田舎貴族に嫁がせて、二度と王都やカステジャノス侯爵領に来られないようにしてやるわ)

 あたくしは自分の子どもであるフランソワーズを虐げることによって、昔の屈辱の憂さを晴らし意地悪な満足感に浸っていたのだった。

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