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婚約破棄は私から
しおりを挟む「ねぇ、マカロン様、私が好きってどのぐらい好きなのですかぁー?あら、いやぁーん。そこはダメ」
鼻にかかったような甘ったるい声が宮殿の薔薇の庭園の茂みからしてきた。
「どのぐらいか?そうだな、海より深く山より高く誰よりも好きだぞ?」
男性にしてはキーの高い声が熱っぽく語っているが‥‥
この声って?
マカロン様じゃぁ?
「マカロン様?きゃぁーーー!なにをしているのです!!!」
私の悲鳴を聞いて、続々と貴族たちがやってきた。
宮殿には、王妃様が主催する舞踏会に出席するために、ほとんどの貴族達が来ていた。
「何事だ?」
「どうした?病人でも出たか?」
口々に言い合い薔薇の茂みの前にみな集まってくる。
薔薇の庭園の茂みの中でもぞもぞしていた二人の格好はひどいものだった。
伯爵家のサリーナはドレスを脱ぎ捨て、レースの下着だけであったし、マカロン王子は‥‥上しか着ていない。
王様も王妃様もいらっしゃるが、あまりのことに言葉がでないようだった。
マカロン王子はこの国の第3王子で、私レティシア・シャトレーム公爵令嬢の婚約者だ。
私がこのマカロン王子の輝く銀髪とアメジストの瞳に惚れ込んだがゆえの婚約だった。
王家も非常に喜んだ。
なぜなら、マカロン王子は第一王子のように学問で優れているわけでもなく、第二王子のように武勇に長けているわけでもなかったからだ。
国王夫妻はマカロン王子が筆頭公爵家で敏腕宰相としても知られる私のお父様のもとで修行すれば、すこしはまともになると期待していたようだ。
しかし、もとより、この婚約に消極的だったお父様はこのマカロン王子の失態に鬼の形相で怒りだした。
「なんということだ!陛下、悪いがマカロン王子はレティシアにはふさわしくない!
婚約は破棄させてもらいたい!」
「え?嫌です!私は、マカロン様を小さい頃からお慕いしています」
お父様の婚約破棄の言葉に私は涙をにじます。
「ふん!聞いたか?宰相!お前の娘は私にぞっこんなのだ。
だいたい、レティシアが悪い。今日は体調が悪いとかで舞踏会は欠席と聞いていたぞ!
急に出席したレティシアが悪いのだ!さらに言えば、このタイミングでこの庭園をうろついていたレティシアが悪い!」
マカロン王子が股のものをサリーナの脱ぎ捨てたドレスで隠しながら横柄に言い放った。
ん?どこかで、こんな言葉きいたぞ?
私の頭に浮かぶこの残像はなにかしら?
☆
「ただいまぁー、一日早く帰ってきちゃった」
私が玄関の扉を開けるとそこには女物のかわいいサンダルがあった。
嫌な予感がして寝室の扉をあけると、黒髪黒目の見栄えのいい男があわてふためいて女を隠す。
夫婦のベッドは乱れていて、女の髪がタオルケットからはみだしていた。
「お、お前!明日、帰ってくるはずじゃないか!!なんで急に帰ってくるんだよ!
電話もしないで、いきなり帰ってくるお前が悪い!」
あれ、この記憶って、もしかしたら前世かしら?
私の夫はちょっとかっこいい優男だった。
私は実家の両親と兄夫婦で温泉旅行に行っていた。
三泊四日の温泉家族旅行は当初は夫もいくはずだったが、急な仕事がはいったとかで私だけが参加したのだ。
このクズは逆切れして私を責めて、しまいには私をグーで殴った最低夫だった。
浮気はするし暴力はふるうし、ろくに働きもしない夫にどれだけ私は苦しめられたか!!
すごく鮮明に、まさに今思い出したのだ!
サンキュー神様、前世の記憶に感謝いたします!!
マカロン王子の未来の姿は前世の私のクズ夫にちがいないもの!
「わたくし、筆頭侯爵家の娘レティシアはマカロン王子をお婿さんにはいたしません!
婚約は破棄します!!」
私は少し離れたところで心配そうに私を見つめているカリブ様を見つけた。
彼は幼なじみで、ツエン侯爵家の次男だ。
私の父のお気に入りでもある。
勉強熱心で真面目な優しい男性だ。
彼は小さい頃から、私に夢中だったのに、なぜ私はマカロン王子なんかにお熱をあげていたのだろう?
そうだ!私こそは愚かなお馬鹿さんな箱入り娘だったのだ。
私は極度の面食いでマカロン王子の銀の髪とキラキラ輝くアメジストの瞳に執着していた。
そう、この王子、顔だけはとびっきりいいのだ。
私よ、前世の教訓を生かしていなかったのね?
でも、今、思い出したから大丈夫!
私はカリブ様を改めてじっとみつめた。
背が高くてがっしりしている体躯とすらりとした足、ブラウンの髪と瞳はありきたりだけれど、髪はサラサラでその瞳の中には誠実さと聡明さと私への愛があるのが見える。
私はカリブ様のところにゆっくりと近づいていく。
「カリブ様、どうか私のお婿さんになってくださいませ」
今まで、何回も彼の告白を蹴ってきた私を許してくれるかしら?
ドキドキしながら私は震える声をだした。
「レティシア様、喜んでお受けしますよ。一生、貴女だけにこの愛を捧げましょう」
素敵なバリトンボイスが薔薇の庭園に響き、私はカリブ様の腕の中に飛び込んだ。
完
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