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前編

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私はカトリーヌ・フェルミン公爵令嬢。このアメジスト王国の筆頭公爵の一人娘だ。ゆくゆくは、王家の三男あたり(従兄弟)を婿に迎えて、なんとなく子供を産んで、なんとなく公爵夫人としてお母様のようにお茶会や夜会に出席して面白おかしく暮らすのだろうな、と思っていた。

ーーつまらない人生よねぇ。決められた世界の決められたレールの上を歩くしかないなんて!私には自由に恋をする機会もないわ‥‥

昔から私を溺愛してやまないお母様と侍女長に、いつも愚痴をこぼしていたが、今はあることを懇願していた。

「お願い!三日間だけでいいの。その後は、公爵令嬢として文句も言わずちゃんとするべきことはするわ。だからお願い!男爵家のカーク様の専属侍女に三日間だけなりたいの」

「「え?なぜ、侍女になりたいのです?しかも、男爵家?そんなことは無理です」」

お母様も侍女長も呆れかえっていたが、私はなんとしてもこの我が儘は通したかった。

「私は、この名門のフェルミン公爵家に産まれお母様は王女様です。これほど、高貴な身分に産まれたために、下々の者の生活も暮らしも、男爵家のような平民に近い方々との交流もありません。これでは、視野が狭すぎるのではないでしょうか?」

「え?‥‥カトリーヌ!そんなことを考えていたの?」

「もちろんです。私はこの公爵家の栄光と繁栄のために修行しに行くことを決意いたしました!」

「なんて、健気な娘でしょう。さすがは、あたくしの娘ですわ。ヘレンや、カトリーヌの願いを聞きいれてあげましょう。ですが、3日間は長すぎます。半日です!わかりましたね?早速、手配を!カトリーヌを男爵家の侍女として潜り込ませるのよ?」

この国の第一王女様でいらしたお母様は大変、美しいけれど頭の中はとても単純な方だった。物事を深くお考えになれば、なぜ公爵家の栄光と繁栄のための修業先がランカスター男爵家の、おまけに三男カーク様の専属侍女なんだ?と疑問をもつはずなのに。良かった。お母様がこういう方で。

ーーお母様、大好きなお母様を欺してごめんなさい‥‥でも、あのカーク様を夜会でちらっとお見かけした時の胸の高鳴りは忘れられないの‥‥背が高くて、精悍な顔立ちの美男子だったのよね。ちょっとだけ‥‥近くで見ていたいのよ‥‥(きゃっ)
アメジスト王国においてはフェルミン公爵家にできないことは、多分なにひとつないのだろう。私は、あっという間に翌日からランカスター男爵家の侍女として仕えることになったのだった。




「カーク様、今日から三日間だけ、専属侍女を勤めますリーヌと申します」

私は、侍女の格好でカーク様に挨拶をした。銀髪と王家の血筋の証明のアメジストの瞳は今は茶色に変えていた。私のような王家の血筋の者は命を狙われる危険が多いため、髪と瞳の色を変化させる能力をもって生まれてくるのだ。

「え?あぁ、よろしく頼む」

そうおっしゃって、うつむくカーク様の耳はほんのりピンクだった。まだ、朝も早い時間なのでそれほど暑くないのに‥‥








カーク様は三男だから、家督も継げず王家の騎士になるか高位貴族の私兵になるしかないだろう。そのため、鍛錬には余念がない。早朝に庭園の隅で剣の練習や格闘の技の研究をしている姿が微笑ましい。


太陽がすっかり空を駆け上がり、日差しがきつくなってくる。そんな、お昼間近になってくると次男のプロミスが、にやつきながらこちらにやってきた。

「カーク!三男ともなると、こんな暑いなか鍛錬しないといけないんだな?かわいそーになぁ?お?見慣れない侍女だなぁ?なんでカーク付きなんだ?俺の専属になれよ?将来のリアム男爵当主だぜ?」

次男のプロミスが私の手をつかんだ。うわぁーきもい!このプロミスって手が、ねちゃっとしていて粘着質な性格をそのまま反映しているようだわ!

「やめてください!」

「なんだと?侍女のくせに刃向かうのかよ?俺は次男だがこのたび、リアム男爵家に婿入りすることに決まったんだ!どうだ?すごいだろ?あのお血筋尊い名門貴族のフェルミン公爵家の傘下のリアム男爵家だぞ?」

ーーふーん。リアム男爵なんて聞いたことないわ。

カーク様はプロミスの手を払いのけ私を助けてくれようとした。

「お前、三男の穀潰しのくせに邪魔すんのかよ?」

カーク様は、その言葉に固まる。

そこに、今起きたばかりだとでもいうように寝癖がはねた嫡男メイソンが混じる。

「なにやってんだよ?お?新しい侍女じゃん!しかもすっげー美形!俺の愛人になれよ。次期当主だぜ?え?カークの専属侍女?なんでだよ?男爵家の三男に専属侍女なんてありえないだろ?こっち来いよ?」

今度はメイソンに手を引っ張られた。カーク様はなにも‥‥言えないのね‥‥

私がカーク様を見れば、カーク様は目をそらして拳を握りしめたままだ。

あぁ、これが現実よね?小説ならここで、このお馬鹿な二人を殴って私を助けて抱き合うはずの展開なのに‥‥

私はため息をついて、さっさとその場から去って行く。引き止めようとしたメイソンには腹に一発蹴りをいれた。フェルミン公爵家の令嬢を舐めんなよ?護身術は3歳の頃から学んでるわ!






「まぁ、お嬢様!お帰りなさいませ」

「あら、カトリーヌ。ぴったりね!修行はできましたか?」

「えぇ‥‥私、いい案を思いつきましたの!これこそ修行の成果ですわ。早速、お爺様に会いに行かなくては‥‥」







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