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3 油ぎったソースに溺れる脂身だらけのお肉

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料理が運ばれてきて、私が肉を口にするとまたお母様が『うげっ』と言うのが聞こえる。もちろんその言葉は私の口から不機嫌な声で飛び出してくる。

「この料理はなんなの? ただでさえ脂身の多いお肉なのに、衣をつけて油で揚げてさらにはこの油の浮いたどぎついソース! あら? ちょっと待って。サマンサ様とミユキーナのお皿のお肉は私のものと似ているけれど、違うようね? 衣がないし、お肉の部位も明らかに異なっていると思うわ。同じお皿に似たように盛り付けられているけれど、なぜあなた方と料理が違うのかしら?」

「まぁ、そ、それは・・・・・・ほら? マドンナは脂身が好きだったでしょう? お肉の脂身は健康にいいのよ? だから・・・・・・」

「あぁ、確かに適度にとるぶんには健康に良いでしょうね。ですが、これは適度の範囲を超えていますね?」

「マドンナは何も知らないのよ。これは特別なマドンナの為の料理ですよ。残さず食べて綺麗になりましょうね」

「あら、うふふ。なにも知らないことはありませんわ。お肉の脂身にはオレイン酸やステアリン酸が多く含まれておりますのよ。オレイン酸は確か生活習慣病予防の効果があるし、悪玉コレステロールを減らすのよね。肌のくすみや肌荒れも防ぐってご存じ? けれど、これは脂身の量が多すぎですし調理法がバカげていますね。カロリーの暴力ですわ! よくも、まぁ、こんなものを私に食べさせてどういうおつもりでしょうか?」

私の中のお母様が猛然と怒っていらっしゃった。

「オレイン酸? コレステロール? なんなの、それは? そんなわけのわからないことを言うのはやめてちょうだい。それはとても身体にいいものなんですよ。私の善意を踏みにじると言うの?」

「まぁ、ありがとうございます。それほど身体にいいものならば、この料理はサマンサ様にお譲りしますわ。これを食べてお父様の為にもその美貌に磨きをかけてくださいね。さぁ、そちらのお皿をこちらに移動させてください。これからは、サマンサ様が私の料理を堪能なさってね? コックと全てのメイドには私から言っておきましょう」

サマンサは引きつった顔で青ざめたまま、交換された私の料理を渋々食べていた。たまに吐きそうな表情になるけれど残すことは許されなかった。

なぜなら、私の中のお母様が厳しい視線でサマンサを睨み付けていたからだった。

「なんなの? おかしいわ! いつもの気弱なイジイジマドンナじゃないわ」
ミユキーナはボソボソとつぶやいて私の方を怖々と見ていたのだった。


☆彡★彡☆彡



「レモン水はね、砂糖や蜂蜜を入れることもあるけれどたくさん飲む場合は入れないのが基本よ。入れるとしても少量の蜂蜜をほんの少し垂らすだけなの。あんなに甘いと言うことは相当の砂糖を入れまくったとしか思えないわ! それとあの料理は最悪よ。お肉はほんのひとつまみの塩コショウだけでも美味しく食べられるのに、油まみれのソースに溺れさせてしまうなんてあり得ないわ。あのお肉も脂身ばかりで赤身が少なすぎるわ。太ったのはマドンナのせいではないわね。あのサマンサの仕業よ!」
食後に自室に戻るとお母様が私に説明してくださった。

「まさかそんなこととは思いませんでした。今まで特にサマンサに意地悪をされたことはなかった気がしますけど・・・・・・」

「あれが意地悪でなくてなんだと言うの! 思い出しても腹が立つわ! そうだ、今からコックのところに行きましょう」

お母様はスタスタと厨房に入っていき、コックを呼びつけてサロンのソファに座らせた。
「私の料理は基本蒸し料理にしてくださいな。網焼きもいいですね。オーブンで焼いても下に油が落ちるようにカリッと仕上げること! お肉は赤身が8割以上のものを用意なさい。少しは脂身も食べる必要がありますからね! サラダにはドレッシングは要りません。塩とレモンとほんの少しのオリーブ油を添えて出してくださいな。パンは全粒粉パンかベーグルを用意なさい」
テキパキと指示をする私にコックは戸惑いながらも、反論してきた。

「マドンナ様のお料理はレシピをサマンサ様から渡されていますから変更などできません! それにもう数週間分の食材は用意してあるんです」
コックは反抗的な眼差しを私に向けてきたのだった。

「あら、私の料理はそのまま作って構いませんよ。ただ、ですけれどね。だって美容にとてもいいのでしょう? だからに譲って差し上げようと思いますのよ。で、サマンサ用の料理を蒸し料理や焼き料理にしなさいと言ったのです。作る分量も手間も変わりませんからなにも問題ないでしょう? サマンサ用の料理をこのが食べるだけのことです! 文句などないでしょう?」
にっこり笑った私の顔は多分相当、圧がすごかったらしい。

「か、かしこまりました」
急に態度を変えたコックがこのような言葉をつぶやいた。

「一瞬、レディローズ女公爵様かと思った・・・・・・ひゃぁーー、あの方の娘だということをうっかり忘れてたわい」

私の態度がいつも自信なさげで鈍くさくサマンサ達に遠慮しがちでいたせいで、使用人達は私がこの公爵家の跡継ぎだということをすっかり忘れていたようだった。

「徐々にねじれた力関係を元に戻さないとねぇ。まったくあのおバカな夫め! わけのわからない女をマハバラ公爵家に引込んで・・・・・・とっちめてやらないと気が済まないわ! まずはあの女の素性を調べないとねぇ」

お母様は私の姿のままでそんなことをおっしゃるものだから、ますますコックは震え上がり深々と私にお辞儀をするとそそくさと厨房に逃げるように去っていったのだった。

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