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魔王様に失恋?幸せは大好きな人たちと‥‥(最終回)
しおりを挟む「足は痛くないかい?」
魔王様は私の足をさすってふわりと微笑む。
「えぇ、大丈夫です」
私は眉一つ動かさず答えるとお母さん魔犬が私を残念な子だというような眼差しで見る。
「全く、これほどの麗しい男性に足をさすってもらって、その無表情、ある意味すごいです!」
「なんで?」
私は魔王様が自ら焼いてくれたウサギの足をかじりながら尋ねた。
「だから‥‥胸キュンとかしませんか?」
「??]
私は、男性を好きになったことがないから胸キュンなんてわからない‥‥
☆
「お姉様、探しましたわ!」
森の向こうから、エマが突然現れて、私にいきなり抱擁してきた。
「まぁーーラティアス大聖女が言ってたことは本当でしたのね!お姉様が魔王様を復活させたなんて、私のためにありがとうございます♪」
「え??」
「魔王様ならば、この世界の全てが手に入りますわ!私こそはその魔王様の横に立つべき女ですわ!」
「ダニエル皇太子はどうするのです?あなたはあの方を私から奪ったでしょ?」
「あら、嫌だわ。お姉様、ダニエル皇太子が勝手に私を見初めただけですわ!私は、最後までお姉様のために私を諦めて欲しいとお願いしていたのですよ?」
綿菓子のような甘い容姿と声をもつ妹には、大抵の男はメロメロになるのよ‥‥
私は魔王様の顔を振り返って見ると‥‥やっぱり‥‥顔を赤くして熱っぽい目でエマを見ていた。
☆
魔王様はふらふらとエマの方へ歩いて行くとエマをがっちりと抱きしめた。
「魔界の妃になっておくれ!そなたにその世界の全てをあげよう」
「うふ♪もちろん、なりますわ!」
エマが言い終わったその瞬間、エマの首と手首に黒い文様があらわれた。
「魔界の妃の証だ。生涯、君は永遠に生き、そして妻としての役割をはたすんだ」
「まぁーーもちろんですわ!!」
エマは私に得意げな顔を向けて満足そうに笑った。
魔王様は、すっかり私のことを忘れてしまったようだ。
エマの世話をせっせとやきはじめた。
私の心はチクリと痛んだ。
ダニエル皇太子に裏切られた時にはなんでもなかったのに‥‥
☆
「この森をさらに深く行ったところに私がもとから統治していた魔界への入り口がある。エマよ、そこに行けば君は魔界の女王様になれる」
「まぁー素敵!!魔界とこの世の全てが私のものですわ!お姉様にはダニエル皇太子をあげますから、安心してくださいね!」
「‥‥‥‥」
私はもうなにも言えなかった。
エマをカエルにしたい!!ダメかしら?
「いいと思います!!」
小さな声でお母さん魔犬が私につぶやいた。
「やっちゃってください!魔王もついでに‥‥」
私はもちろん、そんなことはしないけれど‥‥
魔王様の深みのある色っぽい声がエマに妃よ、と囁いてるのを見てなぜか涙が一粒こぼれた。
こんな感情は知らない‥‥
でも、あのせむしの男だったときに私を命にかえて守ってくれた
私と料理ができて嬉しいと言ってくれた温かい心の頃の魔王様が恋しかった。
私が沈んだ面持ちで物思いに耽っているとお母さん魔犬が私に言った。
「あのエマという女は褒めなくてはなりませんね。恋という感情を預言の乙女に気がつかせたのですから」
「今更、気がついてどうなるの?もうすっかり、魔王様はエマのものだわ」
☆
「魔王様、このウサギ美味しいですわ!最高」
「うん、いっぱいお食べ」
魔王様とエマの会話はますます甘々で、見つめ合う瞳は歓喜に震えているようだ。
私のことが好きだって言っていた男性はもうどこにもいない‥‥
☆
魔王様の魔界への入り口だという場所には結界がはってあった。
魔王様がそれを一瞬で解き放つと、わらわらと異形の魔物が地の底から現れた。
「おぉーー久しぶりじゃ!!魔界の妃だ!!やれ、嬉しい。俺が一番にいただこう」
「いや、いや、俺が一番だ!」
魔物たちが下卑た笑いを顔に貼り付けて、エマの腰を抱き寄せて顔をペロリと舐めた。
「きゃぁーーー無礼者!!私は魔界の妃よ!!魔王様、助けて!!」
「あぁ、君は魔界の妃だ。魔王の妃ではない!!」
「そうさ、魔界の妃は、魔物全部の嫁っていう意味さ。さぁ、来い!魔王様、早速、魔界にひきずりこんでもよろしいですか?」
「あぁ、いいだろう。この女は男と見ればすぐ言い寄る癖があるようだ。充分、お前達の期待に応えてくれるだろう」
「なんですって!!騙したのねーー助けて、お姉様!!」
エマは地の底に消えていった。
☆
呆然としている私の髪をやわやわと撫でた魔王様が私の頬にキスをした。
私は魔王様の頬をおもいっきりひっぱたいたの。
私のこの苦しかった思いをどうしてくれるのよ?
「やきもちをやいてくれるなら本物だ。ありがとう、俺はとても嬉しいよ」
整いすぎた目鼻立ちが冷え冷えとした印象を与えるほどの美貌の青年に胸キュンする日が私に訪れるなんて思ってもみなかった。
「もう、旅は終わりにしよう。これからは二人で人生の旅をしないと。まずは子作りから‥‥」
私は、図に乗っている魔王様のほっぺをちょいとつまんだ。
「その前にお師匠様に報告しないと‥‥」
「もう、知ってるさ。ほら、花びらが空から降ってきた」
お師匠様の大好きな薔薇の花びらが空からはらり、はらりと降り注ぎ、森の木はキラキラと葉を輝かせた。
☆
「私はお師匠様のところで魔王様と平凡に暮らしたいの。世界とか宝石とか特別なものなんていらないわ。ダメかしら?」
「いいとも、そのお師匠様が寿命を全うするまで俺たちはそのお師匠様と一緒に木こり夫婦として暮らそう。
俺たちには永遠の時間がある。俺の妃になってくれるかい?」
「もちろんだわ!!」
私がそう叫ぶのと同時に、空からめいいぱいの薔薇がやたらと降ってきた。
もぉーーお師匠様ってば、きっと涙ぐんで喜んでいるんだわ!!
完
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おとぎ話のようで、テンポよく楽しく読めました。
途中で魔王とせむしの男とジョンがこんがらがってよくわかりませんでした。
感想、ありがとうございます😊
あーですよね?
すみません😔
私も書いていてこんがらがりそうでした………