上 下
3 / 7

3 人の恋路を邪魔する悪女は私?

しおりを挟む
当初はアルフィー様に爵位を与える話も否と叫ぶ者がおり変更になった。私がレイラ・ジョージア・ウィンザー公爵となり、アルフィー様はそれを支えるということになったのだ。

否を唱えたのはお兄様の親友の魔物討伐隊騎士団長カーター様だ。先だっての魔物討伐にも同行したカーター様は「戦闘中に怪我を負い崖から落ち死んだものと思われた勇者様は、恐れながら公爵の位を賜るほどの貢献度がないのでは?」と申し立てたのだ。

「それに、他の女性を連れて帰還した裏切り者勇者様に公爵の地位とこの国きっての麗しい姫を与えるなど騎士団員の士気がだださがります!」と、ものすごい圧で力説なさった。

「レイラ、お前は少しだけ間違ったのかもしれない。カーターのような奴と婚約するべきだったのだよ。過ぎたことだが私が止めていればよかった」お兄様は遠いまなざしで昔を振り返るのだった。



「ねぇ、お兄様。お父様は私がまだアルフィー様を好きなことをわかっていらっしゃるから結婚させてくださるのですよね? 日記を・・・・・・私の日記をお読みになったのでしょうか?」
「なんのことだ? 王家の威信を保つ為だ」
お兄様は目を逸らせて涙を浮かべた。
きっと、お父様もお兄様も私の日記をみてしまったのだ。

『私は過去の恋から逃れられない
アルフィー様しか好きになれない
私は他の女性と子供を作った婚約者でもまだ恋い焦がれている
彼と一緒になれないなら崖から潔く身を投げよう』
これが、私の日記の内容だ。

そんな心の弱い私がお父様やお兄様を悲しませ、この結果を招いていた。
けれどもっと愚かなことは、私がまだアルフィー様に記憶が戻ることを期待していることだ。



ウィンザー公爵家の大きな屋敷は豪華で特別にあつらえた家具類は調和がとれて実に美しい。私は侍女を大勢引き連れて屋敷に入る。一番良い部屋を夫婦の寝室にした。けれど、アルフィー様が同じベッドで寝ることはない。隣のソファーをベッドにして私に手も触れようとはしなかった。

「なぜ、こちらのベッドでお眠りにならないのですか?」
私が尋ねるとアルフィー様は悲しそうに尋ねた。
「それは命令ですか?」
私は・・・・・・なんて答えたらいいのかわからない。

悲しい顔のアルフィー様は私の側にいるけれど、それは身体だけだ。心は別の、そう、あの女性のところにある。
「どうぞ、別邸に行ってもいいですわよ」
日が落ちかけた時刻に、やっと私は夫をオーラのところに行かせる。私の言葉に小走りに遠ざかる夫は別邸の庭先で一歳になる子供を夕日に照らされながら抱きかかえ満足気に笑う。傍らにはオーラが涙ぐんで夫の腕に手をかけていた。彼らの目にはきっと美しい夕映えに見える空。

嫉妬と悲しみで狂いそうな私には空一面が血を散らしたように荒んで見えた。
それでも夫を嫌いになれないもどかしさ。記憶がないからいけない。これが単純な心変わりなら諦めも恨みもするが記憶喪失なんて反則だ。

私はそっと彼らの会話を聞こうと陰に隠れて耳を澄ます。そんなことをすれば余計惨めになるだけなのに・・・・・・

「短い時間しか一緒にいられなくてすまない。だが、心はいつも君と息子のアーチーとともにある」
「いいのよ。わたしはたまにでも顔が見られれば充分ですわ。だって一緒にいる時間だけが愛を育てるわけではありませんもの」
オーラの言葉が私の胸をえぐる。

私はここでは性悪女だ。人の恋路を邪魔する悪女ってこんな感じなのかしら・・・・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下の婚約者は、記憶喪失です。

有沢真尋
恋愛
 王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。  王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。  たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。  彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。 ※ざまあ要素はありません。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

あなたの一番になれないことは分かっていました

りこりー
恋愛
公爵令嬢であるヘレナは、幼馴染であり従兄妹の王太子ランベルトにずっと恋心を抱いていた。 しかし、彼女は内気であるため、自分の気持ちを伝えることはできない。 自分が妹のような存在にしか思われていないことも分かっていた。 それでも、ヘレナはランベルトの傍に居られるだけで幸せだった。この時までは――。 ある日突然、ランベルトの婚約が決まった。 それと同時に、ヘレナは第二王子であるブルーノとの婚約が決まってしまう。 ヘレナの親友であるカタリーナはずっとブルーノのことが好きだった。 ※R15は一応保険です。 ※一部暴力的表現があります。

幼稚な貴方と婚約解消したい。

ひづき
恋愛
婚約者の浮気癖にブチ切れて暴れたら相手が記憶喪失になって口説いてくる。 婚約解消して欲しい!破棄でも可!

旦那様、愛人を頂いてもいいですか?

ひろか
恋愛
婚約者となった男には愛人がいる。 わたしとの婚約後、男は愛人との関係を清算しだしたのだが……

【完結】毎日記憶がリセットされる忘却妻は、自称夫の若侯爵に愛されすぎている。

曽根原ツタ
恋愛
見知らぬ屋敷で目覚めたソフィアは、ユハルと名乗る美貌の侯爵に──三年前から契約結婚していると告げられる。さらに…… 「結婚後まもなく、風邪を拗らせた君は、記憶を一部喪失し、少々珍しい体質になったんだ。毎日記憶がリセットされる──というね。びっくりだろう?」 自分のことや家族のことはぼんやり覚えているが、ユハルのことは何ひとつ思い出せない。彼は、「義理で世話をしてるだけで、僕は君を愛していない」と言う。 また、ソフィアの担当医師で、腹違いの義姉のステファニーも、ユハルに恋心を寄せており……? ★小説家になろう様でも更新中 ★タイトルは模索中

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

処理中です...