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3 レティシアと、おっせかいな伯母様

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「ちょっと、大丈夫? レティシア!」

私は、ナタリーに支えられて涙が溢れて止めることができなかった。この結婚は両親の反対を押し切ってしたものだし、もう実家はお兄様が家督を継いでいる。私は、兄夫婦とは仲が良くなかった。

「レティシアは、最近、ちゃんと食べてないわね? 前より、ずっと痩せたわよ?」

「えぇ、ちょっとダイエットしすぎただけよ・・・・・・ごめんなさい」

「なら、いいけれど・・・・・・なにか、あったら言ってよね? そうだ。今日は、天気もいいし、マリーちゃんを二時間ほど預かってあげるわよ。気分転換にどこか出かけるなり、お昼寝するなり、しなさいよ」

気の良いナタリーは、私からマリーを受け取り、早速世話を焼きだした。


*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚

外に出ると、確かに天気は良くて、頬にあたるそよ風は春の匂いでいっぱいだった。
春か・・・・・・私の心は真冬なのに・・・・・・街行く人は誰も彼も幸せそうに見えた。

自分だけが、不幸で惨めで・・・・・・

「あれ? レティシアじゃないかい? 久ぶりだね?」

そのバリトンの声に振り返ると、私の昔・・・・・・振ったルーカス・サンダー候爵がそこにいた。
この高位貴族を、私は、なんで振ってしまったんだっけ?・・・・・・あぁ、見栄えのもっといいライアンに惹かれたからだわ。

あの頃は見た目が一番、気になった。今は、わかる。男性の見た目の美しさなんて、家庭を築くうえではあまり重要ではないことが。

優しくて、思いやりがあって、子供好きな男性、怠け者じゃなくて、嘘はつかなくて、私だけを大事にしてくれる男性を選ぶべきだったのに、私って・・・・・・バカすぎる・・・・・・

「サンダー候爵様。お久しぶりです。今日は、気持ちの良い天気ですね」

私は、それだけ言って立ち去ろうとした。だが、サンダー候爵は私の顔を覗き込んで、言った。

「ちょっと、そこのカフェでお茶でも飲もう。レティシアは疲れた顔をしているし、朝食は、ちゃんと食べたの?」

私は、おかしくって笑った。この2年ぶりに合う振った男性でさえ、私が食事をしたかどうかを気にかけてくれるのに、夫は今日の朝食どころか、今まで一度だって、そんな言葉をかけてくれたことはなかったのだ。

急に、泣き笑いする私に、サンダー候爵は言った。

「レティシアには、たっぷりした甘いデザートと温かい紅茶が必要なようだね。それと、相談できる相手かな・・・・・・私の屋敷に、おせっかいな伯母が遊びに来ていてね。話をすれば、気分転換になるんじゃないかな」

私は、ナタリーのところに戻り子供を受け取って、サンダー候爵家の馬車に乗り、屋敷に向かったのだった。



*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚


広大な庭園に、荘厳な屋敷、たくさんのメイド。そこは、別世界だった。

「おや、そのお嬢さんはどなた?」

「えぇ、ちょっと・・・・・・多分、叔母様の得意範囲だろうと思いまして・・・・・・」

私は、その風格のある貴婦人に圧倒された。絶対に、この方は高位貴族の、それも相当身分の高い方に違いないわ。

「私は、カトレーネ・トマス前公爵夫人ですよ。あなたのお名前は?」

にっこり微笑んだその方の名前は、貴族であれば誰でも知っていた。社交界や政財界における重鎮なのだった。


このような方に、相談してもいいのかしら?

でも、カトレーネ様は私の赤ちゃんを抱きかかえてくださって、こうおっしゃったのだった。

「赤子の世話は大変でしょう? 赤子が天使なんて大嘘ですよ。愛がある家庭で、夫の協力があったり、他の家族の助けがあったり、メイドがいたりすれば、心の余裕ができて天使と思える。けれど、一人で抱え込んでいるお母さんにとって、子供は・・・・・・天使ではないですね・・・・・・貴女は辛い顔をしていますよ? 私に話してごらんなさい? 大抵のトラブルは片付けてきたつもりですよ」 





▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃


「親友と浮気をする夫、私はどちらも要りません」のカトレーネ・トマス前公爵夫人が登場しました。

読んで頂いた方なら、わかるあの女傑です。

読んでいない方にも、全く問題なくお読みいただけるように書きますのでご安心くださいませ。
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