上 下
3 / 3

後編

しおりを挟む
「この秘密は当主夫妻と跡継ぎの嫡男だけが知ることが許される秘密なのだよ。いずれ他家に嫁ぐ娘には漏らしてはいけないのだ」
 お父様は厳めしい面持ちでそうおっしゃる。

「そう、女はおしゃべりだしね。身内から騙さないと秘密って広まっちゃうでしょう?」

「なっ、なんですってぇ? 私は決しておしゃべりじゃないわよ! 失礼な弟ね」

「まぁ、マリアーノ侯爵家の令嬢を守る為でもあっただろうと、俺は思うなぁ。娘も影の仕事をいろいろ知っているとしたら、誘拐して拷問でもして吐かせようとする者も出てくるよ。影の一族の秘密は当主夫妻と跡継ぎしか知らないというのは、貴族間の暗黙の認識だ。だから娘は守られる」
 フィンレー王太子殿下が面白そうに私達親子を眺めている。

「ふーーん。わかったような、わからないような理屈ですわね。まぁ、意地悪で私だけ教えてもらわなかったのではないことはわかりましたわ」

「だからだ、君も暫くは愚かなふりをすることだ。早速刺客に狙われるなんて命がいくつあっても足りないよ」

「まぁ、そうですわね。では、ちょっと失礼! きゃぁーー、大変、大変。騎士達よ、早く来てぇーー!! ダーリンが、私の大事なダーリンが矢で刺されちゃったのぉーー」

 大きな声でわめき散らしながら、綺麗に結い上げた髪を無造作にほどく。しなやかな銀髪をわざとかき乱し、顔をゴシゴシとこすったから、化粧が剥げ落ちてかなり酷い状態だと思う。

 バタバタと駆け込んできた騎士達が私の姿にかなり引いているのを満足げに眺めていると、
「ダメだよ、フローレンス。やり過ぎ。それだと愚かというより、ちょっと医者を呼ばれちゃう方向だよ」
と、フィンレー王太子殿下が可哀想な者を見る目つきで私を見た。

(むむっ・・・・・・愚かって演じるのは難しいようね。でも、私は優秀なのだから立派に愚かな王太子妃になれると思うわ!)








 それからの舞踏会や夜会では、フィンレー王太子殿下にあわせて奇妙な柄のドレスを着たり、わざとダンス時に足を踏みつけたり、語学がまるで話せないふりをした。刺客はあれ以来、来ない。
 でも、たまに王族から毒を盛られることはある。フィンレー王太子殿下の叔父様達の仕業だと思う。お陰で毒の勉強もしたし、食べる前には必ずネズミに食べさせてから口にするようになった。

 お毒味役の侍女が3人も亡くなって、気の毒だったからネズミに変えたのよ。ネズミも可哀想って意見もあったけれど人間が死ぬより遙かにマシよね。



「ご覧になって、今の王太子妃殿下を! 以前は才女の誉れも高かったのに、今ではすっかりフィンレー王太子殿下のお馬鹿が伝染して・・・・・・おいたわしい」
 社交界では憐憫の眼差しが痛いけれど仕方がないのよ。今、殺されるわけにいきませんからねっ!

「フィンレー様。この愚か者のふりはいつまで続ければよろしいでしょうか?」

「うん、僕たちに息子ができたらやめようね。だって、息子を守る為には僕らが矢面に立たなければね!」

(なるほど! 次代の跡継ぎを守る為のお馬鹿さんのふり作戦か・・・・・・確かに息子を狙わせるわけにはいかない)

 私はこの時やっと、国王陛下夫妻が愚かなフィンレー王太子殿下をなぜにこにこと眺めていたのか、その気持ちがわかったのよ。




 息子を産んだら、敏腕王太子妃としてガンガン活躍するわよ! でも殺されるわけにはいかない。なので私は毎日お父様達と黒装束を纏い影の動きを猛特訓している。
 刺客が来たら、返り討ちにしてやるからね!

「あのさぁ、フローレンス! やっぱり君って面白いよね。斜め上を行くかんじがとっても可愛いよ」
 私の提案で呆れながらも隣で黒装束に身を包み、特訓を受けるフィンレー王太子殿下。

 訓練中にも拘わらず、フィンレー王太子殿下がそっと私の頬にキスをした。

「もぉーー! 今はダメです。これが終わってからゆっくりと・・・・・・」
 頬を染めて言った私の言葉に、フィンレー王太子殿下も顔を赤くした。
 最近やっと初夜を済ませた私達は、とても仲が良い。

「さぁ、殿下! あともうひと頑張りいたしましょう。」

「了解した。では、訓練再開としよう。えやぁああぁああーー」
 フィンレー王太子殿下はジョアンに向かって突撃していった。

 なにを目指しているかって? それは最強の愚か者夫婦に決まっているじゃない!









おしまい

୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

これ、コメディーですので、ふざけたエンディングですみません。
しおりを挟む
感想 9

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(9件)

aporokita
2022.06.01 aporokita
ネタバレ含む
青空一夏
2022.06.01 青空一夏

Aporokita様

面白くて一気に読みましたとのこと
とてもうれしいです😊
数多くの小説から読んで下さってありがとうございます
お名前に覚えがありますので
また読んでくださったんですね、感激です🌈

そうです、空気が読めないヒロインなんですけども
気に入っていただいてよかったです🤭

弟のサイドストーリー、王太子とラブラブですね?
確かにこの続きがいくらでも書けそうな感じですよね🎶

できれば作者もその続きを書いていきたいなとは思っております
感想ありがとうございます🌷
これからもよろしくお願いします🙇🏻‍♀️

解除
ミドリ
2022.05.14 ミドリ

面白かったです。
前に出てはいけない理由が意外でした。
ハッピーエンドで良かったです。

青空一夏
2022.05.14 青空一夏

ミドリ様

>面白かったです
ありがとうございます✨

>前に出てはいけない理由が意外でした
うんうん

>ハッピーエンドで良かったです
はい、ハッピーエンドは読み終わった後が気持ちいいですよね🤗

 ∧,,,,∧
(* ・ω・)
/ つ(⌒⌒)
しー \/感想ありがとうございます💓

解除
黒幸
2022.05.13 黒幸
ネタバレ含む
青空一夏
2022.05.13 青空一夏

くろいゆき様

ありがとうございます😊

>……恐ろしい政治の話があったとは
いろいろな駆け引きがあるようで怖いですよね

>……両親や兄弟が黙っていたのもうなずけるものがあります
ですよね、わかっていただけて嬉しいです🎶

>……斜め上の努力を見ると特に(笑)
そうなんです、あれでも必死に前向きに生きているつもりのヒロイン😮‍💨

>……とても素敵なエンディングでした
そうおっしゃっていただけて感謝です
ありがとうございます💞

感想ありがとう✿˘︶˘✿ ).。.:* ♬*゜ございます🕊🌈

解除

あなたにおすすめの小説

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

勘違いも凄いと思ってしまったが、王女の婚約を破棄させておいて、やり直せると暗躍するのにも驚かされてしまいました

珠宮さくら
恋愛
プルメリアは、何かと張り合おうとして来る令嬢に謝罪されたのだが、謝られる理由がプルメリアには思い当たらなかったのだが、一緒にいた王女には心当たりがあったようで……。 ※全3話。

義妹に婚約者を取られて、今日が最後になると覚悟を決めていたのですが、どうやら最後になったのは私ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フェリシティーは、父や義母、義妹に虐げられながら過ごしていた。 それも、今日で最後になると覚悟を決めていたのだが、どうやら最後になったのはフェリシティーではなかったようだ。 ※全4話。

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。 しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。 そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。 このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。 しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。 妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。 それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。 それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。 彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。 だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。 そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。

婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど

oro
恋愛
「アイリーン・ヒメネス!私は今この場で婚約を破棄する!」 王宮でのパーティにて、突然そう高らかに宣言したこの国の第1王子。 名前を呼ばれたアイリーンは、ニコリと微笑んで言った。 「あらあらそれは。おめでとうございます。」 ※誤字、脱字があります。御容赦ください。

夫が私を捨てて愛人と一緒になりたいと思っているかもしれませんがそうはいきません。

マミナ
恋愛
私は夫の事を結婚する前から愛していた。 夫も私の想いを受け入れて結婚をし、夫婦になったの。 でも、結婚をしてからの夫は私によそよそしい態度をとって目を合わせず家を空けたり上から目線な態度を取るものだからたまに帰って来れば互いに言い争ってばかり…。 こんなはずではなかったのに…と落ち込む私に追い打ちをかけるように今度は夫が見知らぬ女性をいつの間にか連れて来て 「彼女はカレン、今日から新しいメイドとして働く事になった。彼女は元々身寄りをない踊り子だったんだがとても真面目で働き者だと評判だったからぜひ私達の元で働かないかと声をかけたら快く了承してくれたんだ、だからよろしく頼む。」 いつも目を殆ど合わせてくれない夫が真剣に頭を下げて頼み込んで来たから私は夫の隣で微笑む若い女性に疑念を抱きながらも渋々受け入れる事にしたの。 でも、この判断をした私は酷く後悔したわ。 カレンがメイドとして働く事となってから夫は私から遠ざかるようになりカレンばかりを大層可愛がり、彼女もまた夫の身の回りの世話ばかりするようになった。 それ以外の仕事はサボリ気味で他のメイドや執事から苦情が殺到しても意に介さない。 そんなカレンを夫は庇い続けて私の意見には一切耳を貸さなかったわ。 カレンもまた夫の前では控え目で大人しそうな態度をとる裏で私や他の人達には傲慢で我儘な態度をとる性格をしているの。 でも私よりも若く容姿端麗な彼女を夫はベッドへと連れ込み肉体関係を結んだわ。 夫は私と離婚して君と一緒になりたいとカレンに告げた事に絶望し、意を決して復讐する事を決意したのだった。

【完結】『お姉様に似合うから譲るわ。』そう言う妹は、私に婚約者まで譲ってくれました。

まりぃべる
恋愛
妹は、私にいつもいろいろな物を譲ってくれる。 私に絶対似合うから、と言って。 …て、え?婚約者まで!? いいのかしら。このままいくと私があの美丈夫と言われている方と結婚となってしまいますよ。 私がその方と結婚するとしたら、妹は無事に誰かと結婚出来るのかしら? ☆★ ごくごく普通の、お話です☆ まりぃべるの世界観ですので、理解して読んで頂けると幸いです。 ☆★☆★ 全21話です。 出来上がっておりますので、随時更新していきます。

お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました

来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」 突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・ サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。