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後編
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「この秘密は当主夫妻と跡継ぎの嫡男だけが知ることが許される秘密なのだよ。いずれ他家に嫁ぐ娘には漏らしてはいけないのだ」
お父様は厳めしい面持ちでそうおっしゃる。
「そう、女はおしゃべりだしね。身内から騙さないと秘密って広まっちゃうでしょう?」
「なっ、なんですってぇ? 私は決しておしゃべりじゃないわよ! 失礼な弟ね」
「まぁ、マリアーノ侯爵家の令嬢を守る為でもあっただろうと、俺は思うなぁ。娘も影の仕事をいろいろ知っているとしたら、誘拐して拷問でもして吐かせようとする者も出てくるよ。影の一族の秘密は当主夫妻と跡継ぎしか知らないというのは、貴族間の暗黙の認識だ。だから娘は守られる」
フィンレー王太子殿下が面白そうに私達親子を眺めている。
「ふーーん。わかったような、わからないような理屈ですわね。まぁ、意地悪で私だけ教えてもらわなかったのではないことはわかりましたわ」
「だからだ、君も暫くは愚かなふりをすることだ。早速刺客に狙われるなんて命がいくつあっても足りないよ」
「まぁ、そうですわね。では、ちょっと失礼! きゃぁーー、大変、大変。騎士達よ、早く来てぇーー!! ダーリンが、私の大事なダーリンが矢で刺されちゃったのぉーー」
大きな声でわめき散らしながら、綺麗に結い上げた髪を無造作にほどく。しなやかな銀髪をわざとかき乱し、顔をゴシゴシとこすったから、化粧が剥げ落ちてかなり酷い状態だと思う。
バタバタと駆け込んできた騎士達が私の姿にかなり引いているのを満足げに眺めていると、
「ダメだよ、フローレンス。やり過ぎ。それだと愚かというより、ちょっと医者を呼ばれちゃう方向だよ」
と、フィンレー王太子殿下が可哀想な者を見る目つきで私を見た。
(むむっ・・・・・・愚かって演じるのは難しいようね。でも、私は優秀なのだから立派に愚かな王太子妃になれると思うわ!)
それからの舞踏会や夜会では、フィンレー王太子殿下にあわせて奇妙な柄のドレスを着たり、わざとダンス時に足を踏みつけたり、語学がまるで話せないふりをした。刺客はあれ以来、来ない。
でも、たまに王族から毒を盛られることはある。フィンレー王太子殿下の叔父様達の仕業だと思う。お陰で毒の勉強もしたし、食べる前には必ずネズミに食べさせてから口にするようになった。
お毒味役の侍女が3人も亡くなって、気の毒だったからネズミに変えたのよ。ネズミも可哀想って意見もあったけれど人間が死ぬより遙かにマシよね。
「ご覧になって、今の王太子妃殿下を! 以前は才女の誉れも高かったのに、今ではすっかりフィンレー王太子殿下のお馬鹿が伝染して・・・・・・おいたわしい」
社交界では憐憫の眼差しが痛いけれど仕方がないのよ。今、殺されるわけにいきませんからねっ!
「フィンレー様。この愚か者のふりはいつまで続ければよろしいでしょうか?」
「うん、僕たちに息子ができたらやめようね。だって、息子を守る為には僕らが矢面に立たなければね!」
(なるほど! 次代の跡継ぎを守る為のお馬鹿さんのふり作戦か・・・・・・確かに息子を狙わせるわけにはいかない)
私はこの時やっと、国王陛下夫妻が愚かなフィンレー王太子殿下をなぜにこにこと眺めていたのか、その気持ちがわかったのよ。
息子を産んだら、敏腕王太子妃としてガンガン活躍するわよ! でも殺されるわけにはいかない。なので私は毎日お父様達と黒装束を纏い影の動きを猛特訓している。
刺客が来たら、返り討ちにしてやるからね!
「あのさぁ、フローレンス! やっぱり君って面白いよね。斜め上を行くかんじがとっても可愛いよ」
私の提案で呆れながらも隣で黒装束に身を包み、特訓を受けるフィンレー王太子殿下。
訓練中にも拘わらず、フィンレー王太子殿下がそっと私の頬にキスをした。
「もぉーー! 今はダメです。これが終わってからゆっくりと・・・・・・」
頬を染めて言った私の言葉に、フィンレー王太子殿下も顔を赤くした。
最近やっと初夜を済ませた私達は、とても仲が良い。
「さぁ、殿下! あともうひと頑張りいたしましょう。」
「了解した。では、訓練再開としよう。えやぁああぁああーー」
フィンレー王太子殿下はジョアンに向かって突撃していった。
なにを目指しているかって? それは最強の愚か者夫婦に決まっているじゃない!
おしまい
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
これ、コメディーですので、ふざけたエンディングですみません。
お父様は厳めしい面持ちでそうおっしゃる。
「そう、女はおしゃべりだしね。身内から騙さないと秘密って広まっちゃうでしょう?」
「なっ、なんですってぇ? 私は決しておしゃべりじゃないわよ! 失礼な弟ね」
「まぁ、マリアーノ侯爵家の令嬢を守る為でもあっただろうと、俺は思うなぁ。娘も影の仕事をいろいろ知っているとしたら、誘拐して拷問でもして吐かせようとする者も出てくるよ。影の一族の秘密は当主夫妻と跡継ぎしか知らないというのは、貴族間の暗黙の認識だ。だから娘は守られる」
フィンレー王太子殿下が面白そうに私達親子を眺めている。
「ふーーん。わかったような、わからないような理屈ですわね。まぁ、意地悪で私だけ教えてもらわなかったのではないことはわかりましたわ」
「だからだ、君も暫くは愚かなふりをすることだ。早速刺客に狙われるなんて命がいくつあっても足りないよ」
「まぁ、そうですわね。では、ちょっと失礼! きゃぁーー、大変、大変。騎士達よ、早く来てぇーー!! ダーリンが、私の大事なダーリンが矢で刺されちゃったのぉーー」
大きな声でわめき散らしながら、綺麗に結い上げた髪を無造作にほどく。しなやかな銀髪をわざとかき乱し、顔をゴシゴシとこすったから、化粧が剥げ落ちてかなり酷い状態だと思う。
バタバタと駆け込んできた騎士達が私の姿にかなり引いているのを満足げに眺めていると、
「ダメだよ、フローレンス。やり過ぎ。それだと愚かというより、ちょっと医者を呼ばれちゃう方向だよ」
と、フィンレー王太子殿下が可哀想な者を見る目つきで私を見た。
(むむっ・・・・・・愚かって演じるのは難しいようね。でも、私は優秀なのだから立派に愚かな王太子妃になれると思うわ!)
それからの舞踏会や夜会では、フィンレー王太子殿下にあわせて奇妙な柄のドレスを着たり、わざとダンス時に足を踏みつけたり、語学がまるで話せないふりをした。刺客はあれ以来、来ない。
でも、たまに王族から毒を盛られることはある。フィンレー王太子殿下の叔父様達の仕業だと思う。お陰で毒の勉強もしたし、食べる前には必ずネズミに食べさせてから口にするようになった。
お毒味役の侍女が3人も亡くなって、気の毒だったからネズミに変えたのよ。ネズミも可哀想って意見もあったけれど人間が死ぬより遙かにマシよね。
「ご覧になって、今の王太子妃殿下を! 以前は才女の誉れも高かったのに、今ではすっかりフィンレー王太子殿下のお馬鹿が伝染して・・・・・・おいたわしい」
社交界では憐憫の眼差しが痛いけれど仕方がないのよ。今、殺されるわけにいきませんからねっ!
「フィンレー様。この愚か者のふりはいつまで続ければよろしいでしょうか?」
「うん、僕たちに息子ができたらやめようね。だって、息子を守る為には僕らが矢面に立たなければね!」
(なるほど! 次代の跡継ぎを守る為のお馬鹿さんのふり作戦か・・・・・・確かに息子を狙わせるわけにはいかない)
私はこの時やっと、国王陛下夫妻が愚かなフィンレー王太子殿下をなぜにこにこと眺めていたのか、その気持ちがわかったのよ。
息子を産んだら、敏腕王太子妃としてガンガン活躍するわよ! でも殺されるわけにはいかない。なので私は毎日お父様達と黒装束を纏い影の動きを猛特訓している。
刺客が来たら、返り討ちにしてやるからね!
「あのさぁ、フローレンス! やっぱり君って面白いよね。斜め上を行くかんじがとっても可愛いよ」
私の提案で呆れながらも隣で黒装束に身を包み、特訓を受けるフィンレー王太子殿下。
訓練中にも拘わらず、フィンレー王太子殿下がそっと私の頬にキスをした。
「もぉーー! 今はダメです。これが終わってからゆっくりと・・・・・・」
頬を染めて言った私の言葉に、フィンレー王太子殿下も顔を赤くした。
最近やっと初夜を済ませた私達は、とても仲が良い。
「さぁ、殿下! あともうひと頑張りいたしましょう。」
「了解した。では、訓練再開としよう。えやぁああぁああーー」
フィンレー王太子殿下はジョアンに向かって突撃していった。
なにを目指しているかって? それは最強の愚か者夫婦に決まっているじゃない!
おしまい
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
これ、コメディーですので、ふざけたエンディングですみません。
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感想ありがとうございます🌷
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ミドリ様
>面白かったです
ありがとうございます✨
>前に出てはいけない理由が意外でした
うんうん
>ハッピーエンドで良かったです
はい、ハッピーエンドは読み終わった後が気持ちいいですよね🤗
∧,,,,∧
(* ・ω・)
/ つ(⌒⌒)
しー \/感想ありがとうございます💓
くろいゆき様
ありがとうございます😊
>……恐ろしい政治の話があったとは
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>……両親や兄弟が黙っていたのもうなずけるものがあります
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>……斜め上の努力を見ると特に(笑)
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>……とても素敵なエンディングでした
そうおっしゃっていただけて感謝です
ありがとうございます💞
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