レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#11-16

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 時間というのは早いもので、寧々と約束をした土曜日がきてしまった。
 だが、こういう日に限って、客足が減らない…。甘王は、10時から15時の間で営業しているのだが、今日は土曜日ということもあって、遠方の方からも客が訪れていた。
 まぁ、こんなことは珍しくもないのだ、最近は、グルメ雑誌や観光雑誌なんかで取材を受けたり、特集を組まれることも増えたため、週末や祝日、連休なんかを利用して、県内外からの来客も増え、今では行列ができる程となった。それは有難いことなのだが、おっちゃんと私の二人では、肉体的にキツいところがある。
 幸い私は、記憶力と計算には自信があるため、聞き間違えない限りは、客の顔とオーダーメニュー、会計等はスムーズにできるのだが、食事の提供などは、作り手と客の数の比率が釣り合っていないため、少し待たせてしまうこともある…。
 だから、昼頃の時間帯になると、幾ら甘味処とはいえ、店内は戦場の様にてんやわんやしている。
 「今日も疲れた~。」
 最後の客を見送り、暖簾を入り口の一番近くのテーブルに置き、そのままの勢いで椅子に腰を下ろした。
 「お疲れ…。今日は一段と忙しかったね…。」
 おっちゃんも座敷横になった。
 「…ね…。」
 この店を手伝うようになって、かれこれ5年が経つ。忙しいのはある程度は慣れたが、疲れが解消されることはまずない…。それは、おっちゃんも同じな様で毎回、店を閉めると座敷や居間に横になったりしている。
 「そういえば、この後出かけるんだっけ?」
 「そう…。ちょっと友だちに誘われてて。」
 「そっか。良いねぇ、ちゃんと学生してて。じゃぁ、これで友だちと旨い物でも食ってきな。」
 おっちゃんはそう言うと、レジから一万円札を差し出してきた。
 「悪いよそんなの。今月のお小遣いだってまだ残ってるし。」
 「学生は何かと出費が多いんだ。こういう時は、有難く貰っておけ。」
 「でも…。」
 「なぁに、ちょっと軽いボーナスだと思ってさ。それに、諭吉が一人や二人、居なくなった程度でやっていけなくなる程、ウチは貧乏じゃねぇからな。」
 おっちゃんは意外と頑固なところがある。普段は、のほほんとしている時が殆どだが、一度決めたことは、最後まで貫き通す。私はそれを知っているから、こういう時は、素直に引き下がるようにしている。
 「分かった。ありがとね。」
 私は差し出された一万円札を受け取った。
 「あぁ、楽しんでおいで。」
 おっちゃんはそういうと、居間の方へと引っ込んでいった。
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