レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#11-6

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 サークルが終わる少し前に、私はマナカに連れられて、駅前の楽器店にやってきた。
 私も楽器店に来ることはよくあるが、全国にあるようなチェーン店には、ほとんど足を運ぶことは無い。中学の吹奏楽部時代のときは、それなりに通っていたが、高校に上がって、ベースを本格的にやる様になってからは、大体は個人営業の小さい楽器店にお世話になっている。今背負っている楽器もそこで、購入、カスタムしてもらったものだ。
 だから、こういった店に入るのはある意味、新鮮だ…。
 「ホラ、あれだよ!」
 マナカが示したのは、壁一面に展示されているギターの一つだった。
 「あれが、トヨダ先輩が高校生時代に作った、初代Nexシリーズ。」
 彼女がNexシリーズと言って示したギターは、大手楽器メーカーのロゴが付けられた、ストラトタイプのギターだ。ボディは、エボニーのオイルフィニッシュで、自然な木の色気が出ている。
 形だけでも、見惚れる程の仕上がりだ。
 「綺麗…。これ、トヨダ先輩が作ったの?」
 「まぁ、作ったといっても設計だけだけど…。木材もピックアップもそれなりの物使ってるから、スペック自体は申し分無いんだけど、一番はコスパの良さよ。値段見てみな?」
 彼女の言葉に釣られ、近くの値段表記を見た…。
 価格は、78,900と書かれていた。
 「約8万?!」
 「そう。スペックの割には、この値段でかなりコスパが良い。高校生でも、少し頑張れば手に入る値段だから、初心者から中級者向けにはかなりいい代物になってる。
 そして、2代目。Nex-Stage。値段は、初代より少し値上げしたけど、それでもコスパの良さは変わらずで、こっちは完全中級者向けに設計された物。多くの学生ギタリストはこれをメイン楽器にしている人も多い。」
 私も、一からではないが、楽器の設計はやったことがある。だから、その計画の労力や、それなりの知識が必要なのは分かる。
 それに私は、自分の楽器をカスタムしただけだから、その楽器の癖などを知り尽くしていたから、ある意味簡単だった。
 だが、それを、ボディやネックの木材から、ペグ、ナット、フレットの素材、ピックアップ周りの配線等…。知るべき情報や、計画性、技術…それらを全て習得したからこそ、楽器の設計ができたのだろう…。
 だが…。
 「そこまで設計力があって、なんでウチの一般的な大学に居るの?音楽大学や専門学校のクラフト学部とか、リペア学部なんかに行った方が、もっと勉強できたんじゃない?」
 「そう、そこなんだよね…。私も、この大学に入学したとき驚いたよ…。まさか、こんな一般的な大学に居るとは、夢にも思わなかったよ…。」
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