レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#11-4

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 特に何かの曲を弾いた訳では無い。ただテクニックを披露するための、練習用のリズムパターンを繋げたフレーズを、高速で、スラップを織り交ぜてベースを弾きまくった。
 そうすれば、少なくとも二人は釣れるはずだ…。
 そら来た…。
 「…。」
 出入り口近くの席に腰をおろしていた、男が一人、近づいてきた。そして、近くに合ったギターアンプに担いでいたギターを接続し始めた。私は、そのギターを見て目を疑った。私自身、ベースにはかなり詳しい。だが、その他の楽器には、詳しくはない。それなりに有名なメーカーの楽器やシリーズ物は知っている。
 彼が持っている楽器は、大手メーカーの一般的なシリーズだ。値段もそんなに高くなく、初心者にも優しい楽器だ。それなのに、彼から伝わってくる気迫は、只者ではないことは分かる…。
 「新人。大見得切ったからにはその腕、伊達とは言わんよな?」
 「確かめて見ますか?先輩!」
 私がそう答えると、先輩はピックで弦を掻き鳴らした。即興で、私のリズムに合わせて‥。
 楽器の性質上、決していい音が鳴るわけではない。だが、聴いていて悪い気はしない。
 まるで、ベースの私が支えられている様な感じだ…。
 「どうした?生産本数10本の希少で高貴な楽器が泣くぞ…。」
 彼は、私にしか聞こえない程の声量でそう言った。
 私のベースは、メーカーと有名楽器店が共同で作成した、生産本数が希少な特別な逸品。それを私が、とあるリペア師に頼んで、自己流にカスタムした代物。通称…。
 「鈴寧CCZ。モデルにこそはなってないが、スペックは、原価以上と聞く…。それがこの程度…。聞いて呆れるな…。」
 彼は、私のベースの個体名を知っていた…。紛れもなく、楽器マニアだ…。
 「すみませんね…。出来上がってからまだ触った時間が短いもので、扱いなれてないんですよ…。
 「先輩こそ、そんな楽器で、よく私のベースを相手できると思いましたね…。」
 「弘法筆を選ばず…。俺はどんな楽器だろうと、充分に弾ける…。お前程度、これで充分だ。」
 彼がそう言い切る頃には、私と彼の楽器の音は止んでいた…。
 「新人。お前の情熱と技量は買ってやる。ちょうど次回のライブは暇していた頃だ。お前の誘い、受けてやる。そして、メンバー集めはお前がやれ…。」
 先輩は、そう言うと、楽器を片付け始めた。
 「それと、俺に本気出してほしいのなら、当日まで、技を磨いてこい。」
 先輩はそう言うと楽器を背負い、部屋を出ていった。その直後、他のメンバー達はざわつき始めた。
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