レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#8-9

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 「相変わらず、流行ってないな、この店は…。」
 「うるせぇ…。そんな事言うなら、今日までのツケ、全額一括で払ってもらうぞ。」
 九条マスターは、少し脅すような声色で、そう言った。 
 「教え子の店で、ツケ払いとは…。」
 「いい加減払いなさいよ…。大人としてみっともない…。」
 彰君の言葉に、私は追撃した。
 「だったら、今井、払ってくれよ…。俺とお前の仲だろ?」
 ジン君は、そう言い、私の隣に座った。確かに、彼との仲は、それなりに長いと思うが、彼のツケを払う程の付き合いではない…。
 「イヤよ…。一体、幾らに膨れ上がっているか、知らないけど、それは自分で払って…。」
 私がそう言うと、九条マスターはカウンターの下から、メモ帳の様なものを取り出し出した。
 「今のところ、16万8290円ですね。一体どうやって払うんですかねぇ…。」
 「16万…。」
 新庄ちゃんが呆れた様に、頭を抱えた。
 「流石に知人とはいえ、10万越えをポンと奢る様なことはできないわ…。」
 16万ぐらいなら、正直どうとでもなる…。だが、彼に奢った所で、私には何もメリットがない…。自分の後始末は自分でして欲しい…。
 「仕方ない…香織をけしかけて…。」
 「そんな事したら、ぶっ飛ばす…。」
 何やら物騒な言葉が聞こえてきた為、それを遮り、私は拳を握った。
 それを見た、ジン君は身震いした様に見えた。
 「そ、そう言えば、香織ちゃんたちは今日、旅行中だっけ?」
 新庄ちゃんが話題を逸らした。
 「そう。麻由美ちゃんの実家の旅館に泊りがけで行ってる。ちなみに、こういう所だってさ。」
 九条マスターが近くにあった旅行雑誌を手に取り、見開きページを開いた。
 そこには、『湯屋 百乃季』の特集が組まれていた。
 「百乃季!結構有名だよね!よく、テレビのコマーシャルでやってるよね?」
 新庄ちゃんが驚いた様にそう言った。
 「あぁ。そっかぁ…。鈴木も金持ちだったのか…。」
 ジン君が、何かを企んでいる様な顔をした。
 「それはダメ。それにしても、良いなぁ。あたしも旅行したい…。」
 「今度行こうよ、香織ちゃんたちにはまねできない、“オトナな旅行”」
 「オトナな旅行…。」
 彰君が何やら考え込む様に、顎に手を当てた。
 「そ、そんな如何わしい事しないから!」
 新庄ちゃんが必死になって、それを訂正した。
 「ん?俺はちょっと贅沢な旅行をイメージしてたんだが、一体…。」
 彼はそう言いながら、目の前にあったグラスと、ピッチャーを手にし、彼女の左隣に席を移した。
 「どんなことを想像していたんですか?」
 「…っ…。」
 新庄ちゃんは頬を染めて、彼の顔を見つめ返していた。
 「え、えっと…。君が、その…そう言う想像してたんじゃないかなぁと思って…注意しただけだけど…。」
 「そう言う…想像…?」
 彼はそう呟くと、更に、顔を近づけた。
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