レトロな事件簿

14章：四人の約束

#8-2

　「それ、惚気？」
　寧々が、そう言った。
　「どう聞いたらそうなるの…。毎回毎回、大変なんだから…。」
　「…その店主、許すまじ…。」
　何かぼそりと呟いた三枝さんが拳を握り、わなわなと震わしていた。
　「まぁ、香織は時間の問題として…。彩はどうなの？そんな話、全く聞いた事ないけど？」
　麻由美が、彩に話を振った。言われてみれば確かに、彩に男性の話を聞いた試が、殆どない。
　まぁ、バイトやサークルをしていて、出会いが多いのは間違いないだろう。だが、基本的に、私たち3人や、寧々と一緒にいる組み合わせの方が多い為、そんな話、まるで聞いた事が無かった。
　だが、話に出てしまったからには、気になる…。
　「…。」
　「…！何？もしかして、居るの？気になる人？」
　寧々が驚いた様な声で、そう聞き返した。
　「ま、まぁね…。誰かまでは言わないけど。隠してても、しょうがないし…。」
　「…っ！これは、後で尋問だな…。」
　「それ、私も参加したい…。イマドキの恋バナ聞いてみたい…。」
　三枝さんも何故か、興奮した様に、食いつきそう言った。
　「ま、待って！私絶対に話さないからね
！」
　彩も必死で止めようと、彼女等を説得した。
　「話す、話さないじゃなくて、聞くだけだから。香織も気になるよね？」
　斯く言う私も、そんな面白そうな話、気にならない訳もなく…。
　「めちゃくちゃ気になる！彩からそんな話を聞くことなんて、無いから！」
　私がそう言うと、彩は更に焦ったように、続けた。
　「わ、私のそんな話聞いたって、つまらないよ！もっと楽しい話しようよ！そ、そう！コーヒーの話とか！」
　「それなら、光も呼ばなきゃね…。あの娘、コーヒーの話大好きだから…。」
　三枝さんが、嫌な笑みを浮かべ、スマホを取り出した。
　「何だったら、麗子さん（女性スタッフ）も呼ぼう。この時間からは、暇だろうし。」
　麗子さんは、私たちが今日止まっている部屋の隣に住み込んでいる、女性スタッフ、秋葉麗子。
　「良いね！呼ぼう呼ぼう！そして、女子会するぞ！」
　三枝さんと寧々を筆頭に、私と麻由美も、それに賛同した。唯一、彩だけは全力で、拒否していたが…無視することにした。
　
　それから10分後、私たちが泊っている部屋に、三枝さんと立花さん、麗子さんが加わり、かなり賑やかになった。三人とも、寝間着に着替えていた。
　テーブルの上には、何処から調達したのか、缶チューハイやビール、カップ酒。更にはおつまみになりそうな、烏賊や鮭の乾物や小皿料理などが並んだ。勿論、未成年でも飲める様なジュース類もあるが…。