レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#7-4

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 4人しかいない厨房には、賑やかに包丁がまな板を叩く音と、食材たちが油の海に溺れる音、それから鉄鍋が炎に打たれて呻りを上げる音…。色々な音が響き合っていた。
 私は残念ながら、彼女等の助人に入れる余裕がなく、広瀬さんと明日の朝食用の下ごしらえをやっていた。
 下ごしらえとは言っても、野菜の灰汁抜きや種や皮を取る程度なのだが…。
 「…。」
 私も、それなりに料理の腕には、自信があったが、彼女等を目の前にしてしまえば、その自信も、消え失せてしまう…。そんなレベルだ…。
 「中華料理ってのは、火力とスピードも勿論大事だが、一番はリズムだからな。鍋を掻きまわすテンポ。食材を切るリズム…。全てが噛み合ってこそ、中華料理ってのは、完成する…。
 確か、エレキベース、やってるんだろ?あの娘にとっては、一番しっくりくるスタイルなんじゃないか?」
 広瀬さんが、蒸かしたジャガイモの皮を捲りながら、そう言ってきた。
 「そうかもしれませんね…。何度か寧々の料理は食べた事あるけど、レベルが高いのは確かです…。」
 「はは、あまり落ち込むな。寧々ちゃんは、たまたまそれが自分の型にはまってただけだ…。羨む必要なんてない…。」
 それはそうかもしれないが、同じ姓で、同じ年齢で、これだけ差が出来ると、気にするなという方が難しい…。
 「うん…。でも、やっぱり気にしますよ…。あれだけ広瀬さんに鍛えて貰ったのに…。」
 「俺は、0から1にしただけだ。それを10にも100にも変えるには、どうしても才能が必要になってくる。そればっかりは、俺の知からでもどうにもならねぇし、香織の所為でもない。寧々ちゃんの方が、それに恵まれていただけ。ない物強請っても仕方ないだろ…。
 それよりも食べるか?」
 輪切りにしたジャガイモにバターを載せた物を私に差し出してきた。
「……頂きます…。」
 丁度玉ねぎをみじん切りしていたときだった為、仕方なく口で受け取った。バターの柔らかい舌触りと、バリっとするような、スパイシーさが、口いっぱいに広がった。
 バター以外にも、どうやら塩と胡椒が振りかけられているらしい…。
じゃがバター。こんな単純な料理でも、彼が作ると逸品に変わる…。これはこれで凄く美味しいのだが…。
 「ちょっと堅いか…。」
 どうやら、彼の合格ラインには入らなかったらしく、ジャガイモを全て、マッシュ用のボウルに入れ、ラップをかけた。

 「立花さん、あの二人って…。」
 「ん?あぁ、前からそうだよ。何でか仲良くて、一時期付き合ってるとか噂が流れたくらいだよ。本人たち曰く、そんな事実はなかったらしいけど…。」
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