レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#7-2

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 包丁というのは、私もれとろでも今井さんの自宅でも、ほぼ毎日使っている。それほどまでに、こだわりを持たない私にとっては、
それなりの切れ味と、錆びにくささえあれば、それで良いと考えていた。
 だが、立花さんが握っている包丁は、“綺麗”という言葉が、まさしく合う程の見た目だった。
 刃渡りは、大体30センチないくらい。先端は尖っており、私が普段使っている“三徳包丁”とは、明らかに別物だという事が判る。それだけでなく、刀身のグラデーションが掛かったような、模様にも、目が行く…。一体、何十…。いや、何百回、研いだのかわからない…。
 「刃渡り27センチの牛刀だな。この仕事に就いてからずっと使っているらしい。俺も、最初見たとき、思わず見惚れたな…。」
 広瀬さんが、そう言った。彼が誰かを褒めるのは、かなり珍しい事だ…。
 それ程、“立花光”には、期待しているのという事なのだろうか…。
 
 「ふう…。広瀬さん、そろそろ手伝って貰って良いですか?」
 「オーケー。」
 ある程度、食材たちを切り終えたのか、広瀬さんを呼び、鉄鍋に張った油を熱する様にと、指示した。
 立花さんはと言うと、大きめのボウルに卵と冷水を入れ、混ぜ合わせ始めた。
 「何度まで上げる?」
 「海老から行くから、高めで。」
 そんな会話が聞こえてきたとき、私はようやく答えが分かった。
 「もしかして、天麩羅?」
 私の言葉に寧々が頷いた。
 「卵とか、野菜見た時点で、揚げ物なんだろうなって分った。後は、薄力粉と魚介類…。海老ならまだしも、ホタテのフライより、天麩羅の方が、味も風味もそのまま残せるから、天麩羅かなって、思っただけ…。」
 寧々は、そう言いながら、立花さん達の手元が気になるのか、覗き込む様にそれを見ていた。
 「もう少し前に行けば?」と言おうとしたが、炎を使っている厨房。換気扇は、フル稼働しているのだが、熱気は、完全に逃げ切っておらず、少し離れている、私たちの位置ですら、汗が噴き出てきた。
 もう一度温泉入らなきゃなぁと…。と思っていると、寧々のそわそわとした様子気が付いたのか、広瀬さんが、声を掛けてきた。
 「手伝うかい?寧々ちゃん。ついでに、香織も。」
 「え?良いんですか!」
 私が応える前に、寧々がそう、返事してしまった。寧々の“料理好き”は、ここに来ても、止めることができなかったらしい。
 「何をすればいいですか?」
 「じゃぁ、そこの野菜、水で洗って“揚げやすい”大きさで切っておいて。」
 立花さんが、そう指示した。
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