レトロな事件簿

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
256 / 309
14章:四人の約束

#7-1 才能と努力

しおりを挟む
 厨房の隣には、小さな従業員用の休憩スペースがある。小さいと言っても、大広間や宴会場と比べての話だ。私たち5人程度入った所で、狭くはならない。
 厨房の方には、中の様子が見える様な窓が付いている。バイト時代は、ここで何度休憩したことか…。
 そんな事を懐かしく思っていると、丁度食材庫から、食材をかき集めて、立花さんが厨房の方に入ってきた。
 「何作るんですか?」
 「ん~。取り敢えず和食かな。夏だし、さっぱり魚介系で行こうかなと。」
 和食で魚介系は、定番中の定番。とはいえ、料理となると、お刺身か焼き物系しか思いつかない…。
 「和食で魚介って言うと、他に何の料理がある?」
 隣に居た彩に聞いてみた。
 「“他”に何が含まれるか知らないけど、お刺身か焼き物、煮物、揚げ物。すり身にすれば、蒸し物とかもできるね…。まぁ、さっぱりって言ってたから、素焼きとか、お刺身かな?」
 私の考えは、彩の考えとは、概ね差異はなさそうだ…。だが、寧々だけは、異論を唱えた。
 「いや、おそらく違うと思う。っていう物、あそこに並べられている材料見れば、何となく作る者は決まって来るんじゃない?」
 立花さんが持ってきた食材は、卵に夏野菜、烏賊や貝、海老と言った、魚介系。それから、小麦粉や塩などの調味料くらいだ…。
 正直、この段階では、何にでも転向できそうな感じだ…。だが、寧々には答えが分かったらしい…。私たち4人の中で、一番料理が美味い彼女には、プロの料理人に近い感覚を持っているのだろうか…。
 「ま、出来るまで、待ってましょう。」
 そう麻由美がそう言い、近くにあった椅子に座った。
 「出てくる料理を待つのも、一興ってやつですね?お嬢。」
 「そう言う事。」
 三枝さんも椅子に腰かけ、スマホを弄り始めた。
 彩もそれに釣られる様に、麻由美の隣の席に座った。
 「私は、もう少し見てます。ちょっと気になるんで。」
 寧々は、そう言い、カウンターの窓の淵に手を着き、身を乗り出す様に、厨房の中を見回した。
 「入ってみるかい?」
 流しの淵に凭れ掛かっていた、広瀬さんがそう言った。
 「良いんですか?」
 「普段ならダメって言うが、今なら誰も居ねぇし、香織やお嬢のダチだからな。断る理由がねぇ。」
 「じゃぁ、お邪魔します!」
 寧々はそう言いよりも早く、厨房に入った。私もそれに続いた。
 立花さんは、食材をそれぞれ、水で洗った後、自前の包丁を取り出した。その美しさは、何とも形容しがたい刀身だった。
 「キレイ…。」
 寧々がそう呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます 女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

金無一千万の探偵譜

きょろ
ミステリー
年齢四十歳。派手な柄シャツに、四六時中煙草の煙をふかす男。名を「金無 一千万(かねなし いちま)」 目つきと口の悪さ、更にその横柄な態度を目の当たりにすれば、誰も彼が「探偵」だとは思うまい。 本人ですら「探偵」だと名乗った事は一度もないのだから。 しかしそんな彼、金無一千万は不思議と事件を引寄せる星の元にでも生まれたのだろうか、彼の周りでは奇妙難解の事件が次々に起こる。 「金の存在が全て――」 何よりも「金」を愛する金無一千万は、その見た目とは対照的に、非凡な洞察力、観察力、推理力によって次々と事件を解決していく。その姿はまさに名探偵――。 だが、本人は一度も「探偵」と名乗った覚えはないのだ。

霧谷村事件簿 ~隠蔽された過去と未来への軌跡~

bekichi
ミステリー
昭和25年、東北地方の霧に覆われた霧谷村で、中島家に双子が誕生した。村は古い風習や迷信が色濃く残る場所であり、この出来事は喜びと同時に複雑な感情をもたらした。産婦人科医の佐々木絵里の反応から、双子の誕生に関連するある秘密が示唆され、中島夫妻の喜びは深刻な表情へと変わった。この物語は、霧谷村の静けさに隠された秘密と、時を超えた運命の糸を辿る旅の始まりを告げる。中島家の子供たちの運命は複雑に絡み合い、未知の真実へと導かれることになる。そして、この夜は霧谷村の過去と未来を変える出来事の第一歩となる。

双子協奏曲

渋川宙
ミステリー
物理学者の友部龍翔と天文学者の若宮天翔。二人は双子なのだが、つい最近までその事実を知らなかった。 そんな微妙な距離感の双子兄弟の周囲で問題発生! しかも弟の天翔は事件に巻き込まれ――

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽
ミステリー
サブとトクという二人の少年には、人並み外れた特技があった。めっぽう絵がうまいのである。 のんびり屋のサブは、見た者にあっと言わせる絵を描きたい。聡明なトクは、美しさを極めた絵を描きたい。 二人は子供ながらに、それぞれの夢を抱いていた。そんな彼らをあたたかく見守る浪人が一人。 彼の名は桐生希之介(まれのすけ)。あやかしと縁の深い男だった。

処理中です...