レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#6-1 絆

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 「切ってきたよ~。」
 立花さんと、彩が扇状に切りそろえられた、西瓜をお盆に載せ、戻ってきた。
 「お、美味そう。」
 寧々が、一切れ手に取り、口に頬張った。
 「ん~。甘い!」
 その言葉に釣られる様に、広瀬さんも一切れ手に取り、口に運んだ。
 「尾花沢のか…。流石に甘いな…。」
 「ピンポンピンポン!流石ですね、広瀬さん!大当たりです!」
 立花さんが、大袈裟に、人差し指と親指で、『〇』を作った。
 「尾花沢?」
 寧々が、彼に訊ねた。
 「山形にあるスイカの名産地だよ。甘くて水々しいのが特徴。これだけの大きさと、甘みは、かなりの上物だね。」
 彩が説明した。
 「詳しいね、彩ちゃん。ウチの旅館で扱う食材は、それぞれの名産地や特産品を使用している…。勿論、尾花沢のスイカも…。だけど、今年は、不作と聞いて、仕入数を減らしている…。
 そんな中、こんな上玉、一体幾らで手に入れたんだろうね…。」
 広瀬さんが、顎鬚を撫でながらそう言った。
 「と言うか、よく味だけで判りましたね…。」
 彩の問いに、私が応える。
 「音楽の世界に絶対音感がある様に、広瀬さんは、絶対味覚を、持っています。
 「まぁ、ちゃんとした証明は無いが、一度覚えた味は、絶対に忘れないし、それが何の味なのかも、言い当てる事が出来るのが、俺の自慢かな…。
そのお陰で、今の仕事が出来るのもあるし、知れた味もある…。」
 彼はそう言うと、懐かしむ様に、目を閉じた。
 「私にも一個頂戴!」
 いつの間にか、戻ってきた麻由美が、私たちの間を縫って、手を伸ばしてきた。
 「お嬢は本当に、西瓜に目がないですね…。」
 立花さんが呆れた声で、そう言った。
 「ん~。やっぱ、村上さんの所のスイカは、いつ食べても、美味しい!」
 「やっぱ村上さんか…。あの人は絶対裏切らないからなぁ…。」
 「村上さんから、送られてきたスイカの在庫は、まだまだあるから、お腹壊すまでだべられるよ!彩!」
 麻由美のその言葉に、彩は応える様に、二切れ、両手に持った。
 「スイカは大好きなんだよね。甘いし、野菜だし、低カロリーだし。」
 「彩、何気にカロリーとか気にしてるんだ…。」
 寧々が嘲笑うかのように、そう言った。
 「そりゃぁ、女の子だから気にするでしょ!」
 彩の代わりに、麻由美がそう答えた。そう言えば、麻由美は、果実好きだった…。
 「果実は、基本低カロリーだからね。それに、栄養価も高いから、健康に良いからね!」
 久々に麻由美の活き活きとした、弁論を聞いた。
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