レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#5-5

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 「お姉の事なんて、あまり深く考えないようにして、今まで生きてきたつもりだった。だから、香織ちゃんにも、隠さずにそのことを打ち明けられた。自分ではそう思ってた…。だけど、現実では違った…。
 あの、浅沼って人に、香織ちゃんが海に落とされたとき、ただならない恐怖を感じた…。それだけじゃなくて、目の前で、香織ちゃんが溺れ掛けているのに、何もできない自分が、心底嫌になった…。
 結局私は、香織ちゃんに、“私に頼って”って言ったけど、いざそういう場面になると、指一つ動かすこともできなのかと思って…。」
 次第に、彩の話す声が小さくなっていった。
 「それが、情けなくて…悔しくて…。次香織ちゃんと会うときどんな顔して良いか、分からなくて…。」
 「で、そんなになるまで、独りで抱え込んでいたと…。」
 寧々が、そういった時にはすでに、彩の眼には、涙が溢れていた。
 気持ちは分からなくもない。実際、私自身、彼女と同じ立場に置かれたら、私も身動き一つ取れずに、その場に固まるだろう…。
 だから、彼女の痛みは、身に染みてわかる…。
 「香織。今同情したでしょ?」
 突然、麻由美が冷たい声でそう言った。
 「え…。ま、まぁ。気持ちは分からなくもないから…。」
 「それが一番ダメ。」
 「え?」
 私が聞き返す間もなく、寧々が立ち上がり、彩の目の前まで行った。そして…。
 
 バチン

 と大きな音を立てて、彩の左頬を引っ叩いた。
 「もう一度言ってみろ!」
 さらに、彩の着ていた浴衣の胸倉をつかみ、前後にゆすり、口調を荒げた。
 「もう一度、同じ事言ってみろって、言ってんだよ!」
 寧々のその迫力に、彩だけでなく、私までビビってしまった。
 「え、えっと…。」
 「私の…。私等の香織が、そんなことで、あんたの事、見限ると思ったのか?」
 その言葉に彩は、ハッとされたのか、首を横に振った。
 「そうだよな?現に今、香織はあんたの心に同情した。“気持ちが分かる”って。それだけ、この子は、優しいんだよ!
 合わせる顔がないだ?なんで、私たちに、何も相談しないんだよ!私たちって、そんな上辺だけの存在なのか?当然、隠した方が良い事もあるかもしれないけど、少なくとも、あんたと、香織の事でしょ?だったら、真っ先に私に相談して欲しかった…。あの時、悔しかったのが、あんただけだと、思わないで…。」
 最後の言葉が弱弱しくなったのを、見計らったのか、ようやく、麻由美が割って入った。
 「その辺にしておきな…。彩も悪気があった訳じゃないだろうし…。これ以上責めても、お互い傷つくだけ…。」
 そう言うと麻由美は、二人を引き離した。
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