レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#5-3

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 「なるほどね…。」
 寧々は、そう言うと、勢いよく立ち上がった。
 「寧々?」
 「彩は、今もきっと苦しんでいるんだと思う。まだ、小さかったとはいえ、何もできなかった自分を、悔いているのかもしれない…。」
 「それに加えて、“大人”に対して、それなりのトラウマを抱えているとなれば、きっと、誰にも話すこと出来ないまま、ずっと独りで、ただ只管耐えるしかなかったとすれば、アンタも理解できるでしょ…。」
 麻由美も少し、睨みを利かせ、そう言った。
 「行くよ、香織。どっちにしろ、アンタの力が、絶対に必要になって来る。」
 そう言うと、寧々は、私の手を引いて、浴場を後にした。

 
 浴衣に着替え、私と寧々は、部屋に向かった。麻由美は、残念ながら、有美さんに捉まり、仕事に駆り出されてしまった。
 「ね、寧々、何するの?」
 「腹を割って話す。ただそれだけ。」
 寧々は、それだけ言うと、部屋の扉を、勢いよく開けた。
 布団が敷かれており、テーブルや座椅子などは、部屋の端に置かれていた。(どうやら、女性スタッフが、敷いてくれたらしい…。)
 彩は、その端に寄せられたテーブルに肘を突き、私が貸した小説を、読んでいた。
 「彩!」
 寧々がそう叫ぶと、彼女は驚いた様に、こちらを見た。
 「な、何?早いね…。もう少し、のんびりしてくればよかったのに…。」
 彩がそう応えたのだが、寧々は、それを無視し、部屋の中に、入り込んだ。そして…。
 「うぉりゃ~。」
 寧々がそう叫ぶと、彩を軽々持ち上げ、布団の上に放り投げた。
 「いった…。いきなり何すんの…。」
 寧々はその反応も、無視し更に、彼女に覆いかぶさった。まるで、先ほど、私が三枝さんに奇襲を掛けられた時の様に…。そして…。
 「おら~~。」
 寧々のその言葉と共に、彩は、笑い声をあげた。
 「や、止めて、寧々…。わ、私…こう…いうの、苦手…だから…。」
 彩が、息の絶え絶えに、そう言いながら、寧々の手を、振りほどこうと、必死になっていた。そして、私の顔を見ると…。
 「か、香織…ちゃん…。た、助けて…。」
 そう言いながら、手を差し出してきた。その時、部屋の扉が開き、麻由美が、入ってきた。
 麻由美は、暫く状況を確認した後…
 「私も、混ぜて!」
 それだけ、言い残すと、じゃれ合っている二人の仲に混ざった。それと同時に、寧々の笑い声も重なった。
 何と言うか楽しそうだ…。だが、残念ながら、私には、こういう時、どうすればいいのか、分からない…。
 「捕まえた…。」
 いつの間にか、彩の手が、私の浴衣の裾を掴んでいた。
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