レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#3-1 中庭

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 厨房での仕事が終わった頃には、既に18時を回っていた。先程まで、あんなに煩かった蝉の声は、いつの間にか、聞こえなくなっていた。空は、まだほんの少し、明るいが、山間という事もあり、外灯だけでは、少し、寂しさを覚えた。
 「疲れた~。」
 部屋に入るなり、いきなり、間の抜けた、声を上げ、広縁にある、ソファにダイブしたのは、寧々だった。
 「あんたが言い出したことでしょ?」
 寧々の向かい側のソファに腰を下ろした彩が、そうツッコんだ。
 「そうだけど…旅館の仕事ってこんなに大変だとは、思わなかった…。慣れているとは言え、麻由美と香織は凄いね…。全然へばってない…。」
 「これでも、結構疲れてるよ。」
 私は、お茶を4人分注ぎ、そう答えた。
 「私も、やり始めの頃は、大変だったよ…。毎日、母さんに怒られるし、仕事も覚えなきゃだし…。」
 私も、この旅館で、バイトをし始めた頃は、大変だった。旅館全体の間取りを、覚えるのもそうだし、何より、要領が、悪いから、何回も、似た様な失敗を繰り返してしまう。
 そんな、情けない自分が、嫌いになった時も、当然あった。だが、それでも、“忙しい”時間は、嫌いじゃなかった。毎日似た様な、日常を繰り返してきた、私にとっては、何もかもが、新鮮で、楽しかった。
 「香織、覚えてる?」
 淹れたてのお茶を、啜りながら、麻由美が訊ねてきた。
 「香織が、ここにきて、2週間くらい経った時の頃。酔っ払いのおっさん客に、理不尽にキレられたの。」
 「ふふ…。」
 それを聞いて、思わず、笑いが込み上げてきた。忘れる筈がない。確か、自宅から、持ってくる筈だった、それなりに高い、カミソリを、忘れてきてしまい、仕方なく、現地で、買おうとしたが、此処の近辺は、ホームセンターはおろか、ドラッグストアも無い。駅前に行けば、無いことも無いが、ここから、車で、片道2~30分程掛かる。仕方なく、各部屋備え付けの、T字カミソリを使わざるを得なくなったのだが、それだと、痛くてしょうがないと、喚き散らされたのだ。
 「その時、偶々近くを通り掛かっただけの香織が、それに捕まって、おろおろしてたよね。」
 麻由美が、半笑いの口調で、そう言った。
 「そう…。あの時、本当に焦ったよ…。騒ぎを聞きつけて、すっ飛んで来た光さんが、宥めに入ったのは、良いんだけど、その時言った言葉が…。」
 「「知らんがな!」」
 それを聞いて、一層笑いが込み上げてきた。それに、釣られたのか、彩と寧々も笑い始めた。
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