レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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番外編:1今井真香の事件簿

#23

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 「それにしても、アザレアの社長からの提案には驚きましたね…。」
 朝倉ちゃんが、淹れられたばかりのコーヒーを啜りながらそう言った。
 
 届いたメールの内容を、要約すると、今回の情報の横流し事件は、向こうの営業、松戸が、単独で行った行為として、処理するとのこと。
 実際、ウチの鈴木課長を除けば、誰一人、今回の事件に関与している人物は、居なかった。よって、松戸営業部長を、降格及び、半年間の減給。更に、地方の支社に左遷を命じる。
 その代わりに、鈴木課長を、アザレアのデザイン部の中途採用として雇い、半年間の現場研修の後、関東支部にて、新人デザイナーとして、再雇用するとのことだった。
 
 願ってもいない提案だった。ウチは、店舗単位でいえば、左遷もできなくもないだろうが、本社勤務の、元役職付の人材が、急に現場に、勤務を命じられれば、店舗のスタッフたちも、困惑するだろうし、変な噂を立てられても困る…。
 だから、扱いに困っていた。
 「アザレアの社長も、ああいう、汚いやり方、嫌いな質だから、負い目があったんじゃないかな?」
 アザレアの社長とは、それなりに長い付き合いだ。私が起業した時から、何かと可愛がってもらっていた。
 だからこそ、今回の件は、申し訳なく思っている。
 「まぁ、そのお陰で、柳子さんが、課長に昇格ですからね。これから、一層頑張って下さい。」
 朝倉ちゃんが、そう言った。
 「本当に私なんかで良かったんですか?もっと適任は、何人も居たんじゃないですか?」
 「デザイン部、全員の意見よ?それに、入社当時から、貴女が頑張っていた事は、あたしも知ってるから。」
 「ありがとうございます。ちゃんと、頑張らせて頂きますが、至らないと思ったら、直に切っても良いんですからね?」
 柳子がそう言った時、格子戸がガラガラと音を立てて、開いた。そこに立っていたのは、紙袋を抱えた、宮本香織だった。
 「おや?今日は、水曜日ですよね?」
 「午後の講義が、補講者だけ、対象になっていたの、すっかり忘れていました。って、1時間程前に、メッセージ送った筈ですが…。」
 古川氏が、スマホを確認すると、「おや、これは失礼しました。見落としていました。」というと、彼女から、紙袋を受け取った。
 「来て早々で、申し訳ないですが。ご指名が入っておりますので、対応、お願い致します。」
 古川氏が、柳子の方に、視線を送った。
 「解りました、着替えて来ますので、ブレンドと、カップの準備お願いします。」
 「解りました。残念ですが、たった今淹れた、“ショコラ・ピーベリー”は、又の機会という事で…。」
 その言葉に食いついたのは、柳子だった。
 「ショコラ・ピーベリーですか?そっちも、是非とも飲んでみたいです!」
 「それは、構いませんが、お代はちゃんと頂きますよ?」
 その会話の横で、朝倉ちゃんが私の方に、耳打ちしてきた。
 「“ショコラ・ピーベリー”って、何ですか?品種としては、聞いた事ありませんが…。」
 いつもなら、俄かの私には、答えられないだろうが、今回ばかしは、昨日、香織ちゃんに、予め教えてもらった。
 「ショコラ・ピーベリーって言うのはねぇ…。」
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