レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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番外編:1今井真香の事件簿

#13

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 「九条さんって、昨日バーに居た、あのイケメンさんですか?」
 「えぇ、あの顔だけが取り柄な、ウチの店主です…。」
 最初会ったときは、冗談が言えるような子ではなかったのだが、最近では、他人のことを冗談として、扱えるまで成長した…。それは、私個人的にも、嬉しいのだが…。
 「顔だけが取り柄で、申し訳なかったね…。」
 休憩室の扉を押し開け、九条君がカウンター内に入ってきた。
 「いらしてたんですか…。」
 「君も随分と物申す様になったね…。」
 かなり気まずい空気が、静かな店内に漂い始めた。
 「九条さん、私忘れませんからね…。この間の夜…私に絞り、全部任せましたよね?」
 “絞り”というのは、果汁を直接絞ることだ。力もそれほど必要になるし、手もよふぉれる。できる事なら、避けたいのだが、女性客が多い日は、柑橘系を中心に、果汁の入った、カクテルの注文が多くなる…。
 「偶々じゃないかなぁ…。」
 視線をそらした、九条君がそう答えた。
 「そうですか。じゃぁ、私の目を見て、もう一度同じ、答えを述べてください。」
 彼は、観念した様に、ため息を付き、彼女に向き合った。そして…。
 「偶々じゃないかな?」
 先ほどより、声の質を上げ、はっきりと答えた。
 「それはズルいです…。」
 彼女の頬が少し赤らんだ様に見えたが…
 「今度、九条さんに入れるコーヒー、インスタントに変えておきますね…。」
 「それは勘弁してくれ…。」
 二人の間に、火花が散り始めた…。
 私には、一体何を見せられているのか分からないが、柳子は違ったらしい…。
 「お二人って、そういう仲だったんですか?」
 小さな声で、私に訊ねてきた。
 「えぇ、歳も近いこともあってか、普段からこんな感じです…。私もいつ火傷するかと、ひやひやしています。」
 古川氏が、小さな声で答えてきた。
 「これもまた、この店の、“最近の”見どころなのかもしれませんね…。」
 いつの間にか背後に立っていた、“自称”作家さんも、そう答えた。
 「あ、ありがとうございます!コーヒー二杯、合計720円です。100円引き券使って、620円です。」
 我に戻った、香織ちゃんが、淡々とレジ処理を進めていった。
 
 ピィーーー


 そうこうしている間に、ケトル内のお湯が沸騰し、悲鳴を、上げ始めた。
 それを九条君が、無言でコンロから離し、冷やしタオルの上に置き、お湯の温度を、少し下げる。その間に、コーヒーカップやソーサーを、カウンターに並べる。
 何だかんだ言って、良いコンビなのは確かだ…。私が少し、嫉妬するくらいに…。
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