レトロな事件簿

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
195 / 309
番外編:1今井真香の事件簿

#10

しおりを挟む
 「一つ目は、“コロンビア・シティーロースト”です。香り高いコロンビアは、よく、ブレンド等で、香りのアクセントとして、使われることの多い、品種です。
 今回は、フレンチローストと言う、深煎りを使う事で、苦い味を稼ぎつつ、酸味をタッチ程度に、致します。」
 「コロンビアベース…。何度か試した事ありますが、煎り方変えては、流石にないですね…。」
 柳子が、真剣な表情で、そう答えた。
 「コロンビアって、よく聞くけど、やっぱり凄いものなの?」
 丁度カウンター越しに居た、香織ちゃんに訊ねた。
 「そうですね…。“三大コーヒー”として有名な、『キリマンジャロ』や、『グァテマラ』には、香り高さでは、多少劣りますが、ナチュラルな嫌みや、癖の少ない香りが好きな人は、最終的にコロンビアに、行きつきます。それの“シティーロースト”。酸味を抑え、苦味だけを、文字通り炙り出す。なかなか、思いつかない発想です…。」
 彼女も感心した様に、頷き、そう答えた。
 「ふ~ん…。」
 「ですが、肝心な、輪郭のある、はっきりとした、苦味には、当然及びません…。」
 「流石、香織様ですね。味のイメージが、繊細で、何よりです。」
 彼女の呟きの様な、言葉を、古川氏は、見逃してくれず、彼もまた、感心した様に、答えた。
 「あれ?でもさっき、“苦味だけ炙り出す。”的な事、言ってなかったっけ?」
 「言いましたね…。ですが、『マンデリン』や、『トラジャ』の様な、芯がある、しっかりとした苦味じゃないんです。」
 柳子も、彼等に便乗するが如く、私の質問に応答した。
 「と言う事は、トラジャはもう試したことになりますね。」
 「はい…。どうも、香りも強すぎて、他の豆たちを邪魔しちゃう感じがして…。」
 「そう言うと思いまして、今回は、中々他の店では、見る事のできない、逸品を用意いたしました。」
 古川氏は、そう言うと、もう二つ目の瓶の蓋を開け、小皿に移した。
 「パプアニューギニア、“トロピカルマウンテン・イタリアンロースト”です。」
 瓶から出てきた豆たちは、私が今まで見てきたコーヒー豆の中で、一番黒々としていた。豆の表面は、油膜が付着し、照明や、窓から差し込む光を反射させている…。
 「トロピカルマウンテン…。初めて見ました…。しかも、イタリアンローストって…。」
 「パプアニューギニアは、本来、円やかな酸味とすっきりとした後味が、特徴的な、品種です。が、イタリアンローストにすることによって、輪郭のある、キリッとした苦味が、出てきます。それを、少し利用させていただきます。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...