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番外編:1今井真香の事件簿
#5
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「生物は、どうしても、“下”を作りたがるものだからな…。当然といえば、当然の言動だろうが、随分とまぁ、酷い話だな。」
カウンター奥で、ちまちまと独りで酒を飲んでいた、ジン君が、呟き返した。
「お、お兄さんクールですね。どうです?こっちで一緒に飲みません?」
柳子が隣の席を、とんとんと叩き、こちらに招いた。
だが、そんなことしても無駄だ…。なぜなら…。
「悪いね、お嬢さん、俺はあまり、群れて飲むのが、生憎嫌いでね。俺の気が向いたときにでも、また誘ってくれ。」
そう。彼も、私と同じで、他人と呑むのを、あまり好まない。だが、違うのは、彼は、独りで、飲むのが好きなだけだ。
当然、レトロの様な、バーにも行けば、居酒屋にだって、顔を出す。
つまり、『一匹狼』なだけなのだ…。
「えぇ~良いじゃないですか、ちょっとくらい。」
「悪いが、俺は、“独り”が好きなんだ。解ったら、あまり絡むな。」
何度も食い下がる、柳子を、謝りつつ、ひらひらと、かわすジン君。何だろう、何か面白い…。
「じゃぁ、その“独り”が、好きな理由を教えて下さい!」
しばらく、言い合っていたあと、急に、柳子が、核心を突いた問いを投げかけた。
「確かに…。私も気になります。」
カウンター越しの香織ちゃんまでが、その話に、食いついた。かく言う、私も…。
独りが好き。そんな性格の人は、特別珍しくない。だが、それなりの、何かしらの理由を持っているはずだ…。
「おいおい、あまりイジメるなよ…。」
私の視線にも、気が付いたのか、彼は、怪訝そうに、そう言った…。
シンと静まり返った、店内に、彼が傾ける、ロックグラスの、カラカラとした、軽やかな、音が、木霊した。
そして、小さなため息を付いた後、語り始めた…。
「昔の人は、“口は禍の元”とは、よく言ったものだ。俺は、酒は好きだが、特別強いわけじゃない。当然それなりの量を飲めば、酔っぱらってしまう。その油断が、嫌なんだよ…。
余計な事言って、知らぬ間に、誰かを傷つけるのも。大事な情報を、漏らしてしまうのも…。他人の、“弱さ”に気が付くのも…。
それが、嫌なだけだ…。」
彼は、そういうと、グラスに残っていた、最後の一口を、飲み干し、立ち上がった。
「今日はもう帰る。香織ちゃん、勘定。」
「あ、はい。」
「弱さって何?」
会計をしている彼に、訊ねた。
「今井なら、直ぐ分かるはずだ…。」
「一昨日までのツケ含めて、38,067円です。」
満面の笑みで、香織ちゃんが、そう言った。
「………今日も、ツケで頼む。」
スカした、少し良い顔で、彼女に張り合った…。だが、店主も、黙ってはいない…。
「そうは行くかよ。ここは飲み放題じゃねぇんだぞ。丸一か月分、返してもらう。」
「………カ、カードで…。」
観念したのか、生気のない声で、そうそう答えた。
「かしこまりました!」
ここ直近で、こんなに嬉しそうな、香織ちゃんの声を聴いたのは、初めてかもしれない…。
カウンター奥で、ちまちまと独りで酒を飲んでいた、ジン君が、呟き返した。
「お、お兄さんクールですね。どうです?こっちで一緒に飲みません?」
柳子が隣の席を、とんとんと叩き、こちらに招いた。
だが、そんなことしても無駄だ…。なぜなら…。
「悪いね、お嬢さん、俺はあまり、群れて飲むのが、生憎嫌いでね。俺の気が向いたときにでも、また誘ってくれ。」
そう。彼も、私と同じで、他人と呑むのを、あまり好まない。だが、違うのは、彼は、独りで、飲むのが好きなだけだ。
当然、レトロの様な、バーにも行けば、居酒屋にだって、顔を出す。
つまり、『一匹狼』なだけなのだ…。
「えぇ~良いじゃないですか、ちょっとくらい。」
「悪いが、俺は、“独り”が好きなんだ。解ったら、あまり絡むな。」
何度も食い下がる、柳子を、謝りつつ、ひらひらと、かわすジン君。何だろう、何か面白い…。
「じゃぁ、その“独り”が、好きな理由を教えて下さい!」
しばらく、言い合っていたあと、急に、柳子が、核心を突いた問いを投げかけた。
「確かに…。私も気になります。」
カウンター越しの香織ちゃんまでが、その話に、食いついた。かく言う、私も…。
独りが好き。そんな性格の人は、特別珍しくない。だが、それなりの、何かしらの理由を持っているはずだ…。
「おいおい、あまりイジメるなよ…。」
私の視線にも、気が付いたのか、彼は、怪訝そうに、そう言った…。
シンと静まり返った、店内に、彼が傾ける、ロックグラスの、カラカラとした、軽やかな、音が、木霊した。
そして、小さなため息を付いた後、語り始めた…。
「昔の人は、“口は禍の元”とは、よく言ったものだ。俺は、酒は好きだが、特別強いわけじゃない。当然それなりの量を飲めば、酔っぱらってしまう。その油断が、嫌なんだよ…。
余計な事言って、知らぬ間に、誰かを傷つけるのも。大事な情報を、漏らしてしまうのも…。他人の、“弱さ”に気が付くのも…。
それが、嫌なだけだ…。」
彼は、そういうと、グラスに残っていた、最後の一口を、飲み干し、立ち上がった。
「今日はもう帰る。香織ちゃん、勘定。」
「あ、はい。」
「弱さって何?」
会計をしている彼に、訊ねた。
「今井なら、直ぐ分かるはずだ…。」
「一昨日までのツケ含めて、38,067円です。」
満面の笑みで、香織ちゃんが、そう言った。
「………今日も、ツケで頼む。」
スカした、少し良い顔で、彼女に張り合った…。だが、店主も、黙ってはいない…。
「そうは行くかよ。ここは飲み放題じゃねぇんだぞ。丸一か月分、返してもらう。」
「………カ、カードで…。」
観念したのか、生気のない声で、そうそう答えた。
「かしこまりました!」
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