レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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番外編:1今井真香の事件簿

#4

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 「じゃぁ、柑橘系のさっぱりしたの、作れますか?」
 「度数は?」
 「高めでお願いします。」
 柳子が、注文し終えると、カウンターの端に置いてあった、シェーカーと、カウンター下の冷蔵庫から、半分に切られたグレープフルーツを、とりだした。
 「九条さん、持ってきました。」
 香織ちゃんが、立派なビール瓶を、片手に、厨房の方から戻ってきた。
 「サンキュ、これ絞っといて。」
 そういうと、グレープフルーツを手渡した。
 一瞬、嫌そうな顔をしたのを、私は見逃さなかった…。

 「で、今日は、どういった風の吹き回しだい?今井ちゃん。他人と吞むなんて、珍しいにも、程があるでしょ。」
 「あたしだって、偶には、部下と呑みたくなる時だって有るのよ。」
 グラスに注がれたビールを、一口煽り、彼の質問に答えた。
 「そうだとしても、本当に珍しいですね…。」
 「香織ちゃんには、まだわからないと思うけど、社会人には、色々あるのよ?」
 「本当にそうですよ!」
 既に、カクテルグラスを空っぽにした、柳子が、そう叫んだ。幸いなのが、客がジン君だけだということ…。
 「失礼だけど、いい飲みっぷりだね…。結構強めに作ったはずだけど…。」
 九条君が、驚いた様に呟いた。かく言う私も、彼と同じ気持ちだ。彼女が飲んだのは、テキーラをベースにした、アルコール度数20度を超える、『アイスブレーカー』だ。更に、彼が、『強めに作った』と言っていたことっから、アルコール度数は、更に上がっているだろう。
 それを、たった一口で、飲み切るなど、私だってしたくない。
 「飲まないと、やって行けませんよ!毎日毎日、鈴木課長に、無理難題押し付けられて、私だって、他の仕事しなきゃならないのに…。だから、社長、今朝は本当に助かりました!」
 彼女は、もう少し、無口な子だと思っていたが、どうやら、饒舌らしい…。
 「そんな大したこと、してないわよ。朝から、嫌な空気が漂ってたからね、換気は、重要かなぁ、と思って。
 それより、そんなことが、毎日続いているの?」
 「そうなんですよ…。今朝のだって、まだ可愛いものですよ…。先週なんて、午後一の、企画会議で使う、デザイン画の用紙が、小さすぎるって、急遽、印刷しなおしたんですから…。お陰様で、お昼休み返上ですよ…。」
 はぁと、わざとらしいため息を付き、カウンターに、伏せた。
 「やっぱりいるんですね、そういう、パワハラ?する人…。」
 香織ちゃんが、同情するように、呟いた…。
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