レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

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 「帰ってきちゃったか…。」
 今井さんの、視線の先は、店の入り口に立つ、賢太君だった。
 「うん!今日は、職員会議だから、生徒はみんな早上がりなんだって!」
 「良いの?同級生とかと遊ばなくて、ここは、賢太君が居ても、あまり楽しくはないと、思うけど。」
 女性客が、憐れむ様な言葉で、言った。その言葉に、古川マスターが、鼻で笑ったのを、私は見逃さなかった。
 「良いの。香織さんと勉強するから。」
 あの一件以降、私は、彼にえらく気に入られてしまった。実際、満更でもないのが、本性だ…。
 嫌な妹は居たが、弟は、居ない…。本当の意味での兄弟、姉妹というのが、どんなものかは、私は、知らないが、もし、弟が居たら、きっと、賢太君の様に、可愛気のある、子だったのだろうと、最近、想う様になった。
 「香織ちゃん、勉強できるの?」
 そこに、驚いたのは、女性客だった。私だって、仮にも大学生。小学生の勉強を見れないで、何が、“お姉さん”だ…。
 「それは、だよ。香織さん、算数も理科も社会も何でもできるんだよ!特に国語と漢字、覚えやすいように教えてくれる。」
 読者の皆には、種を明かそう。国語と社会は、未だしも、理数系は、大の苦手だ…。だからこそ、親友の彩が、光り輝く。彼女に、事前に色々、教えて貰い、後日、彼の宿題や、勉強を教えることができる。
 本当に、なくてはならない存在だ…。
 「そうね…。文章の作り方とか、漢字の遣い方とか、作家さんみたいですもんね…。」
 杏沙さんが、感心したように、述べた…。そういえば、賢太君との、交換日記、彼女に読まれていた…。
 「そ、それは、昔から、その…本が好きでして…。」
 国語は、無意識の内に、好きな小説家の、漢字の遣い方や、言い回しを、真似る様になっていた。の方が、正しい…。
 社会は、本を読んでいる内に、付いた何気ない知識だ。
 それが、今、こうして、人と接するための武器になるとは、当時は、思いもしなかった。
 「本は、人類の、“知識”と“歴史”と“感情”の財産です。物として、表すことのできない、唯一無二の遺産。香織様がそれを、受け継いでいると考えれば、とても素晴らしいことですぞ…。」
 私の方を向き、誇らしげにそう言った。
 “本”確かに好きだ。誰にも邪魔されず、主人公や作家の、感情や、伝えたいことなど、直接伝わってくる。たとえ、難しい漢字を、用いて、分かりにくい表現だったとしても、当時の作者の、伝えたいであろう感情が、何となく分かる。だから、私は、本は好きだ。
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