レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

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 「数か月前に、旦那が亡くなって、これまでにない程、ショックを受けました。それと同時に、色々な思いが駆け巡りました。
これから、どうやってあの子を育てて行こうかとか。職場を変えた方が良いのではないかとか…。少しでも、気を抜けば、何かが壊れそうで、意地でも、最低でも、あの子の前では、平気で居ようと、努力しました。
 私の両親は、既に他界していて、頼れる親族と言えば、旦那の実母と、実姉くらい…。
 最初の内は、何とか助けてもらいながら、仕事は、今まで通りしていましたが、自分でも、精神的に参っているのは、目に見えて、解りました…。」
 「スランプってやつね…。私も、経験あるなぁ…。」
 今井さんの言葉に、杏沙さんは、こくりと、頷いた。
 「そうなれば、流石に、虚勢だけでは、誤魔化しきれなくて、あの子に、心配されました。
 これじゃ、死んだあの人に、申し訳が立たないと思って、先月、仕事も辞め、こっちに引っ越してきました。」
 「子どもは、私たち大人が、思っている以上に、私たちのことを、よく、観察していますからね…。母親の、体調くらい、直ぐに見抜かれますよ。」
 彼女は、古川マスターの、言葉に、更に、こくりと、頷いた。
 「転職したのは、確かに、良い決断だと思うけど、正直向いていないって、思ったんじゃない?デザイナーと、事務職とじゃ、畑違いにも、程があるからね…。」
 九条さんの言葉にも、再度頷いた。
 「それでも、転職したばかりで、簡単に辞めるわけにもいかない…。仮に、辞めれたとしても、あの子に、また心配かけてしまったらと思うと、どうしても…。」
 そこまで言うと、言葉を詰まらせた。
 私は、例の如く、親の温かさなど、知らない。父親の偉大さなど、尚更…。
 だが、森永母子の話を聞くに、彼らにとって、かなり大きな存在なのだと、知らされた。
 お互いが、お互い、虚勢しあうほどに…。
 「偶には、休んでいいんじゃないでしょうか?
 私は、訳有って、親の愛情なんて知りませんし、感じたこともありません。
 ですが、お互いが、お互い、気を使わなきゃならない、仲なのでしょうか?そこまで、息子の為、親の為と、自分のことより、意識しなきゃならない、関係なのでしょうか…。
 想い合うことは、悪いことではないと思いますが、それで手一杯になってしまったら、それこそ、本末転倒です。」
 「貴女の言う通りね…。でも…親になると、分かると思うけど、そう簡単に、自分のことなんて、考えられなくなるの…。それが、人の親って、事なんだと思う…。」
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