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13章:香織と少年の交換日記
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私が通う大学の、学部は、経営学。少なくとも、取締役や、管理職といった、役職は、いやでも、学ぶ。今は、バイトの身であるため、実感こそは、湧かないが、何となくなら、理解できる。
企業というのは、規模が、小さければ、小さいほど、着いて回る肩書増える。杏沙さんのように、部長と、取締役を兼任することは、珍しくもない。その分役員報酬がプラスされ、給料は、高くなるのだが、それと伴い、責任も、一緒に、着いて回る。役員は、帰宅しようと、休日だろうと、その肩書だけは、外すことが、できないため、家庭が疎かになることも、少なくない。
今井さんを見ていても、そうだ。深夜で、自宅で、晩酌をしていようと、休日、どこかに出かけていようと、仕事先からの連絡は、途絶えることがない。
そう考えると、シングルマザーである、杏沙さんの、気持ちは、分からなくもない。
だが…。
「やっぱり、勿体ないですね…。これだけ、いい物が作れるのに…。私には、そういったセンスが、ないので、羨ましい限りなのに…。」
私は、思ったことを、そのまま話した。
「ありがとうございます…。それでも、道は、選べませんでしたから…。」
杏沙さんは、隣で、ストローで、グラスを啜っている、賢太君の頭を何度かなでながら、そう答えた。
「旦那を亡くして、寂しくないと言えば、嘘になりますが、この子は、あの人の、忘れ形見。そう思って、生きていこう、そう決めたんです。」
彼女の言葉は、心強かった。だが、私には、それが、虚勢だということが、直ぐ分かった。
「香織様。寧々様は、本日、お暇ですかな?」
唐突に、古川マスターが、私に耳打ちで、訊ねてきた。
彼女のバイト先は、駅の反対側の、繁華街にある、小さな、中華料理屋だ。基本、定休日は、5のつく日と決まっているらしい。だが、今日は、生憎、5がつかない…。ましてや、今日は、日曜日、いくら昼過ぎとはいえ、暇だとは、到底思えない…。
「こちらに、来てい頂く様に、都合つけられませんかね?」
古川マスターの、その言葉に、何となく察しが、付いた。
私は、スマホを、持って休憩室に、こもった。
3コール目のあと、寧々が出た。
「ごめん、今忙しい?」
『まぁ、そこそこ、忙しいけど…。どうしたの。』
ガヤガヤとした、店内の雑音が、電話越しでも聞こえてきた。
「古川さんが呼んでて…。今、出てこられれる?無理なら、無理で良いんだけど…。」
『ちょっと待って。』
すると、電話の奥の方で、寧々と、店主の会話が聞こえてきた。
『おっちゃん?そろそろ、上がって良い?友だちが呼んでて、今から、出たいんだけど。』
『彼氏か?』
『“友だち”って、言ってるじゃん!ってか、女の子だし…。』
『…良いよ、昨日も、遅くまで頑張っててくれたし。』
寧々は、店主に、お礼を言い、今から向かると返事が来た。
企業というのは、規模が、小さければ、小さいほど、着いて回る肩書増える。杏沙さんのように、部長と、取締役を兼任することは、珍しくもない。その分役員報酬がプラスされ、給料は、高くなるのだが、それと伴い、責任も、一緒に、着いて回る。役員は、帰宅しようと、休日だろうと、その肩書だけは、外すことが、できないため、家庭が疎かになることも、少なくない。
今井さんを見ていても、そうだ。深夜で、自宅で、晩酌をしていようと、休日、どこかに出かけていようと、仕事先からの連絡は、途絶えることがない。
そう考えると、シングルマザーである、杏沙さんの、気持ちは、分からなくもない。
だが…。
「やっぱり、勿体ないですね…。これだけ、いい物が作れるのに…。私には、そういったセンスが、ないので、羨ましい限りなのに…。」
私は、思ったことを、そのまま話した。
「ありがとうございます…。それでも、道は、選べませんでしたから…。」
杏沙さんは、隣で、ストローで、グラスを啜っている、賢太君の頭を何度かなでながら、そう答えた。
「旦那を亡くして、寂しくないと言えば、嘘になりますが、この子は、あの人の、忘れ形見。そう思って、生きていこう、そう決めたんです。」
彼女の言葉は、心強かった。だが、私には、それが、虚勢だということが、直ぐ分かった。
「香織様。寧々様は、本日、お暇ですかな?」
唐突に、古川マスターが、私に耳打ちで、訊ねてきた。
彼女のバイト先は、駅の反対側の、繁華街にある、小さな、中華料理屋だ。基本、定休日は、5のつく日と決まっているらしい。だが、今日は、生憎、5がつかない…。ましてや、今日は、日曜日、いくら昼過ぎとはいえ、暇だとは、到底思えない…。
「こちらに、来てい頂く様に、都合つけられませんかね?」
古川マスターの、その言葉に、何となく察しが、付いた。
私は、スマホを、持って休憩室に、こもった。
3コール目のあと、寧々が出た。
「ごめん、今忙しい?」
『まぁ、そこそこ、忙しいけど…。どうしたの。』
ガヤガヤとした、店内の雑音が、電話越しでも聞こえてきた。
「古川さんが呼んでて…。今、出てこられれる?無理なら、無理で良いんだけど…。」
『ちょっと待って。』
すると、電話の奥の方で、寧々と、店主の会話が聞こえてきた。
『おっちゃん?そろそろ、上がって良い?友だちが呼んでて、今から、出たいんだけど。』
『彼氏か?』
『“友だち”って、言ってるじゃん!ってか、女の子だし…。』
『…良いよ、昨日も、遅くまで頑張っててくれたし。』
寧々は、店主に、お礼を言い、今から向かると返事が来た。
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