レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

7-5 抹茶の香り

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 「“凄い”と、申されますと?」
 照れくさそうに、答えた、森永母に、古川マスターが、更に、質問を投げかけた。
 「飲食店とかも、他の企業と一緒で、こういった、作戦会議みたいなもの、ちゃんとするんだなぁと…。しかも、こんなオープンで…。」
 言われてみれば、確かにそうかもしれない。私自身、バイト経験は、時間でいえば、それなりに、多い方かもしれないが、ちゃんとした飲食店は、れとろが、初めてだ。
 更に、新メニューの考案や、キャンペーンの企画などの、経営的な会議に、本格的に、加わるのも、初めてだ。
 だからこそ、今まで、違和感を、覚えずに、過ごせていたのかもしれない。
 思い返せば、麻由美の実家の旅館でも、私の実家に近所のパン屋でも、経営会議というものに、参加したことがない。バイトだから、当然と言えば、当然なのだが…。
 れとろの様に、ここまで、オープンな話し合いというのは、森永母から見ても、相当珍しいものなのだろう。
「確かに、経営的な話は、本来、客前でする事じゃ、無いけど、ウチは、バイト含め、従業員が少ないからね…。お客さんの、意見も、聞いた方が、意外と言い案が、出てくることもあるからね。」
 九条さんが、そう答えた。確かに、れとろにの従業員は、今井さんの様に、手伝いに来てくれるメンバーを入れれば、何人かいることになるが、レギュラー化しているメンバーは、私含め、3人だけ。だから、常連さんの、意見も貴重だ。

 「常連客の皆さんは、私たちより、この店について、知って居たりしていますからね…。我々の視線からでは、気が付かない所も、彼等なら、見えて居たりしますからね…。」
 私も、れとろで働いて、間もない頃は、常連さんたちに、助けられた。
 そのお陰もあって、注文ミスも最小限に、抑えられたし、大きなトラブルに巻き込まれることは、殆ど無かった。(いつぞやの、強姦未遂事件を除けば…。)※5章参照
 中には、椅子や、テーブルのぐらつきを、教えてくれる人。新しいコーヒーカップを進めてくれる女性客。コーヒーの風味や味の微細な変化にさえ、気が付く、強者まで、存在する…。
 これ程の、常連客に、支えられて、『珈琲喫茶れとろ』は成り立っている。だからこそ、この店では、こういった、経営会議に、巻き込むのも、ある意味、自然な流れなのかもしれない…。
 「じゃぁ、私も、早く、その“常連客”になれる様に、頑張りますね!」
 森永母が、意気揚々と、そう宣言した時だった。格子戸が、激しい音を立て、勢いよく、開いた。
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