レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

7-1 抹茶の香り

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 「さて、本題に、入りましょうか…。」
 古川マスターが、母子二人を、見詰め、静かに、そう言った。
 「今回は、賢太様のご要望にて、京都は宇治より、上等な、抹茶を仕入れさせていただきました。香織様、倉庫から、持ってきてもらっても、宜しいですかな?」
 「分かりました。」
 私は、倉庫に入り、隅に置かれた、小さな、保冷機から、段ボール箱を手に取った。清水さんからは、『最高品質の宇治抹茶を手に入れた』と、しか聞いていない。そして、抹茶は、思いの外繊細で、コーヒーや、お酒よりも、かなり、保存方法に、気を遣う。本来、ワインやコーヒーの希少種を保管する、保冷機を使い、常に温度管理を徹底していた。
 そのため、この店に届いてから、一度も箱を開封していない…。
 「ご存知の通り、私の店は、コーヒーの専門店。抹茶など、扱う事は、先ずありまんので、そこは、改めて、ご了承下さい。」
 古川マスターが、そう忠告すると、母親は、何度も、「家の子が、申し訳ない。」と、頭を下げた。
 鋏で、段ボール箱の封を切り、中から、銀色の茶筒が出てきた。コーヒーもそうだが、抹茶は、劣化が早い。温度や湿度、光、臭気にまで、気を遣わないと、いけないらしい。
 だから、熱を通しにくく、湿気や臭気から閉ざし、光すら透過しない、金属の入れ物に入れて保存するのが、ベストらしい。
 にしても…。
 「こんな綺麗な、茶筒、初めて見ました…。」
 その茶筒は、曇りや傷が、一切なく、眩い光沢を放っている…。
 「これ、もしかして…。」
 そう言いながら、九条さんが、茶筒を、古川マスターから、半ば奪い取る様に、受け取った。
 そして、暫く、茶筒を、指でなぞったり、眺めたりしていた…。
 「間違いない。本物の、純銀だ…。」
 九条さんが、驚いた様に、目を見開き、カウンターの上に、茶筒を、置いた。
 「じゅんぎん?」
 賢太君が、オウム返しの様に、聞き返した。
 「銀です。金よりは、金銭的価値は、少ないものの、こういった、食材の保存や、食器などには、古くから扱われた、金属です。
 今でこそ、アルミや、ステンレスと言った、軽くて、費用も安く、量産しやすい金属が、増えていますが、銀は、やはり、別格です…。」
 古川マスターが、彼の問いに、答えた。
 「別格というと?」
 私も、その説明を聞き、興味が湧いた。
 「銀は、酸化しにくい、すなわち、錆びにくい性質を持っています。光沢でいえば、ステンレスも負けて居ませんが、何より加工性に優れて居ながら、強度もそれなりに持ち合わせています。その性質と、光沢ゆえに、かつて、金よりも価値があった、とされる時代もありました。」
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