レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

6-8 母子

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 私は、特別ピーマンが、苦手な訳でもない。だが、あの青臭い匂いと、苦味を、好きになれと言われれば、少し、難しい話になる。
 だから私も、料理にピーマンを使うときは、細かく刻むか、濃い目の味付けをして、その匂いと苦味を何とか、誤魔化すように、している。
 それでも、少し、苦味が、残ってしまうこともある。それは、味のアクセントとして、上手く機能してくれる為、特別、気になることは、ない。
 「なるほど…。粗挽きにする事で、少なくなった、フルシティの酸味を最大限引き出し、風味のアクセント利用した訳ですか…。」
 「そう言う事。僕も、“初めて”の試みだったから、酸味が、ちゃんと出てくれるか、どうかは、半分賭けの様な、感じだったかな…。」

 「え?」
 驚いた。彼の、慣れた手つきと、一切迷いのない、一連の行動は、全て、彼にとっても、初めての、挑戦だった。
 つまり、彼は、持っている知識と、持ち前の、応用力で、私と、“勝負”したわけだ…。最初から、優劣などなく、ただ単に、実力の差で、私は、彼に負けた…。
 
 悔しい…。

 そんな経験、今まで山ほどしてきた。でも、今までのそれは、どう足掻いても、変らない結果に対しての、悔しさだ。
 私は、人と“勝負”したことも、何かしらの事で、競い合ったこともない…。強いて、言うなら、高校時代、麻由美と数学の点数を、見せあったくらい…。その時は、私自身、優劣には、興味はなく、ただ、上下を、確認する程度だった…。
 だが、今は、違う。同じ土俵、同じ環境を与えられたにも、拘らず、私は、彼との、勝負に、負けてしまった…。悔しいと同時に、“次こそは”と、私の中で、静かに燃える、何かが、そこにあった…。
 

 「私は、どちらかと言うと、こういう、パンチの聞いた、強めの感じも、嫌いではないですけどねぇ…。」
 古川マスターが、私が淹れた、コーヒーを一口、啜り、舌鼓を打った。
 「ありがとうございます…。」
 私は、お世辞でも、その一言は、嬉しかった…。
 「お世辞では、ありませんよ。何というか、発展途上な感じがして、少し、わくわくします。」
 それは、古川マスターの、本心なのだろう。この数か月、古川マスターと一緒に、仕事をしてきたから、何となく分かる…。彼は、時々、トゲのある様な事は、言う物の、冗談以外で、嘘は、吐かない。何より、私にも、よく指導してくれる、善き師でもある…。
 「ありがとうございます。もっと、勉強します。」
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