レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

6-5 母子

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 「金属フィルターって、普段使わないので、一度使ってみたかったんです。それに、一番温度管理しやすいのは、ハンドドリップですので。」
 「なるほど…。」
 九条さんは、感心した様に、呟いた。そして、カウンター背後の棚から、フレンチプレスを取り出し、お湯を入れ始めた。
 「勝負。」
 彼が、挑発的にほほ笑んだ。その意図は、伝わった。だが、難しながら、それなりの自由度が利く、ハンドドリップと、簡単だが、味が、ある程度固定化されてしまう、フレンチプレスとでは、かなり、優劣が、付きやすい様な気もする。
 「望むところです。」
 「良し、じゃぁ、審判員は、森永様。お願いしても、よろしいですか?」
 九条さんは、そう言うと、彼女に、木製のマドラーを一本差し出した。
 「貴女が、美味しかったと、思う方に、置いて下さい。」
 「コーヒーの知識は、人並み程度ですが、公平に、付けさせて貰います。」
 
 私は、既に、コーヒー豆を挽き終え、お湯を、注ぐ寸前だったので、また、お湯を温めなおした。
 九条さんはというと、先ほど入れたお湯を、全て、吐き出させ、コーヒー豆を、手動ミルで、挽き始めた。
 カリカリと、豆が磨り潰される、音は、何時聞いても、癒されるものだ…。
 そうこうしている内に、私のケトルが、湯気を拭き始めた。
 それが、お湯の温度の、見極め方だった。最初の頃は、当然温度計を、見ながら、お湯加減を、確認していたが、最近では、沸騰した際の、気泡の出方で、判断できるようになった。
 ケトルの底から、出てくる、気泡が、大きくなると、85℃を超えている証拠。そうなると、当然、蒸気の量も、一段と増えてくる。
 それを、コンロから、一旦外し、濡れ布巾の上に、置く。そうすることによって、ケトル内の、温度が、若干下がる。

 私は、最初の数滴を、蒸らしの為に、ドリッパーに注ぎ、ある程度、ガスが抜けるまで、待った。
 その隙に、九条さんは、豆を挽き終わったらしく、引き出しの中身を、フレンチプレスの中に、入れ始めた。私は、驚いた。それは、遠目からでも、分かるくらいの、“粗挽き”だったから。
 本来、ペーパードリップだろうと、フレンチプレスだろうと、挽き方は、大体、中挽きから、中細挽きの間だ。そうでもしないと、味が、極端に、変化してくるからだ。
 エスプレッソや水出しなどの、しっかりとした、苦味とコクを出したのであれば、細引き。アウトドアでの、パーコレーターや、北欧式の煮だしコーヒーなどを、淹れるときは、酸味の聞いた、粗挽きを使い分ける。
 そのため、普段飲む、“一般的”なコーヒーで、粗挽きを使う事など、殆どない。
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