レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

6-4 母子

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 賢太君が、母親の手を引き、店にやってきたのは、日曜日のラストオーダー10分前だった。
 この時間になると、店内には、客が居なくなり、『裏メニュー』を出すには丁度いい。
 「お姉ちゃん!早く“あれ”出して!」
 賢太君が、興奮気味に叫んだ。だが…。
 「ごめんね。古川さん、今、裏で電話してるいから、もう少しだけ、待ってて。」
 週明けの、食材やコーヒー豆の追加発注を、新庄さんに、電話報告していた。今の時代、メールやら、メッセージアプリがあるのだが、古川マスターは、そういう物に疎いらしく、九条さんが、居ないときは、電話で直接、連絡を入れている。
 「その間、一杯飲みますか?」
 私は、母親の方に、メニュー表を差し出した。
 「是非!一度、昼にも来てみたいと思っていたんです!」
 母親は、メニュー表を受け取った。
 「一度とは言わず、好きな時に来てください。」
 母親は、微笑んで、頷いた。
 「じゃぁ、コスタリカ。」
 「承りました。」
 
 コスタリカは、苦味と酸味のバランスが良く、風味の強いのが特徴。そのため、少し温めのお湯(85℃程度)で、抽出すると、より一層、風味を楽しめる。
 更に、その風味事態を、よりダイレクトに味わえるように、普段使う、ペーパーフィルターではなく、金属性のフィルターで、抽出してみることにした。

 「珍しい物、使うね。」
 「うわぁ!」
 突然、背後から、声を掛けられた為、驚いた。危うく、ケトルのお湯を、ぶち撒けるところだった。
 「びっくりした…。急に驚かさないで下さい、心臓飛び出るかと思いました…。」
 九条さんは、苦笑いしながら、応えた。
 「別に驚かすつもりは、無かったんだけど…。」
 「急に背後から声掛けられれば、誰だって驚きますよ…。それより、どうして、裏から入ってきたんですか?」
 真剣にやっていたとは言え、私が、目の前の格子戸が、開く音に、気が付かない訳がない。だから、休憩室にある、勝手口から入ってきたのだろう…。
 「気分的に裏から入りたかっただけ。特に深い意味はないよ…。
 僕も一つ聞いて良い?コスタリカなら、フレンチプレスの方が、簡単じゃない?」
 フレンチプレスは、コーヒーの抽出方法の一つで、コーヒープレスなんて、言われることもある。日本では、紅茶用として、器具が販売されたこともあり、『フレンチプレスは、紅茶』とイメージする人も、少なくないだろう。
 抽出方法は、とても簡単で、蒸らしの時間を、決めて置けば、良いだけ。更に、フィルターは、金属製。だから、本来なら、わざわざ、ハンドドリップ用の金属フィルターを、使って入れる必要がない。
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