レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

6-2 母子

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 「そちらの方は、送料くらいは、かかるかもしれませんが、注文代を取ろうとは、考えていません。」
 そう、古川マスターに言われた、わけではないが、あの人なら、なんとなく、そう言うと、思った。
 女性客は、それでも、渋り出した。そこで、今まで無言だった、九条さんが、重い口を開いた。
 「そこまで、言うなら、払ってもらいましょうか。こちらとしては、値段設定していない物に、お金を払えとは言えないので、貴女が、値段設定して下さい。」
 「私が…ですか?」
 「はい、もしかしたら、ウチの定番メニューになるかもしれませんからね…。」
 片目を閉じ、少し挑発的な態度で、言い放った。
 古川マスターの確認を取らずに、そんなことやって良いのか…。
 「ちょっと、九条さん!」
 私は、思わず、彼の名を叫んだ。
 「夜とは言え、あまり大声出すものでは、在りませんよ?香織ちゃん。」
 軽く説教した後、彼は、話を続けた。
 「僕らは、ある意味、善意で、貴女の息子さんを、ここで、匿っています。貴女が、お礼をしたくなるのは、自然の摂理でしょう…。
 店側としては、メニューが増える事は、今後の利益につながる事になるでしょう…。
 貴女が、本当に、私たちにお礼をしたいのなら、この店の利益になることは、していただけますよね?」
 女性客は、少し悩んだ後、口を開いた…。
 「やらせていただきます。偶然とはいえ、同時に二回も、助けて頂いてますので、それくらいの事は、させてください。」
 女性客は、そういうと、グラスに残っていた、スクリュー・ドライバーを、飲み干した。

 彼女が、店を去った後、今井さんが、険しそうな顔をしていた。なんとなく、理由は解る…。
 「そんな、無茶なことやって、大丈夫でしょうかね…。」
 私が、そう訊ねても、今井さんの反応はなかった…。
 「今井さん?」
 2・3度、彼女の名前を呼んで、ようやく、我に返った様だ。
 「あ、ごめん…。」
 「どうしたんですか?珍しく、考え込んで…。」
 「あのねぇ、あたしだって、色々考える事あるのよ?
 そうじゃなくて、あの人、どこかで会ったことある気がするのよねぇ…。だけど、どこだったか、覚えてなくて…。」
 今井さんの、その発言に、九条さんは、くすり笑い、応えた。
 「今井ちゃんは、忘れぽいからねぇ…。」
 その口調は、何かを知って居る様な、口だった…。
 「何か、知ってるんですか?」
 「知っているからこその、挑戦さ。あの人こそ、ウチに必要かもしれないなぁ…。」
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