レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

5-6 虫の知らせ

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 それから、数時間が経過し、小さな柱時計は、16時20分を指していた。寧々は、賢太君に、街を案内すると言い、14時ころ、二人とも、退店した。
 古川マスターは、銀行に用事があると言い、15時半ころ、店を出て行った。
 今店に居るのは、私だけ…。より静かな、れとろの店内は、新鮮で、なんとなく好きだ。
 この時間は、客足も殆どなく、自分の時間を邪魔するものなど、何もない…。
 私は、カウンター内の、“いつもの”木製の丸椅子に腰を掛け、ウトウトしていた。
 休憩室に居ても、良いのだが、その場合、入店者に気付かない事がある為、カウンター内に居るのが、一番良かった…。
 
 しばらくすると、格子戸が、ガラガラと音を立て、開いた。
 私は、客が来たと思い、起き上がり、接客モードに入った。だが、入店してきた人物が、九条さんだと知って、改めて椅子に、座り直した。
 「今日は遅いですね。」
 私がそう訊ねても、彼は無言のまま、カウンター内に入ってきた。そして、驚いた。逆光で気が付かなかったが、彼の顔は、所々痛々しい青痣や傷が、出来ており、絆創膏を張っている所もあり、ハンサムな顔が台無しになっている…。
 「ど、どうしたんですか?その傷!」
 私は、声を荒らげ、再度、立ち上がった。その拍子に、丸椅子は、大きな音を立て、倒れた。
 「ちょっと、階段で転んでね…。」
 彼は、そう言ったが、それが“嘘”だという事は、この私ですら、分かる…。唇の端に着いた、擦過傷。額には、青痣。左頬は、赤く腫れており、明らかに、『殴られて』得た傷だというのは、察した。
 そんな、直ぐバレる様な嘘を、彼は吐いた。だからこそ、踏み込んでは、いけない理由が、あるのだろう…。
 「珍しく、ドジですね…。お守りでも買ってきましょうか?」
 私は敢えて、その“嘘”に、乗ることにした。すると彼は、少し微笑んだ後、2、3度、私の頭を、撫でた後、奥の休憩室に入って行った。
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