レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

5-3 虫の知らせ

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 寧々は、水出しコーヒーを一口、啜ると、ぽつりぽつりと、話し始めた。
 「実はさ、彩の話なんだけど…。」

 サマーダイニングが終わり、香織と別れた後、私と彩は、遠野のおじさんとの車に乗せられ、家路に着いた。その車中、彩は無言のまま、俯いていた。
 最初は、疲れているのかと思っていた。だが、後日、バンドの練習の兼ね合いで、スマホで、メッセージを送ったが、返信は、『いつもの』ものではなかった。
 いつもなら、スタンプや、顔文字交じりの、洒落っ気のある、文章なのだが、この間ものに限っては、「分かった」の一言だけだった。
 彼女と知り合って、まだ数か月しか経っていないが、それが、異常な事は、分かっていた。
 一度、何があったのか、訊ねてみたが、返事は、「何でもない。」だの「ただ、考え事していただけ。」だの、私が聞きたい答えが、返って来なかった。
 賢い性格とは言え、彼女も人間だ、悩み事の一つや二つあるのは、当たり前だが、それを、隠してまで自分で抱えなきゃいけない事とは、一体なんなのか…。


 「バンドの練習中も、何処か上の空だし、ミスこそはないけど、なんていうか、覇気がないっていうか…。上手くは言えないけど、いつもの“彩”じゃない気がして、ならないんだよね…。」
 寧々が話してくれた内容は、少し驚愕的だった。彩とは、会えば、話し合う仲だが、連絡をし合う仲ではない。そのため、彼女の今の状態が、どんなものかなど、考えた事が無かった。
 「へ~。彩でも、そんな事あるんだね…。」
 私も、寧々の思想と、同じだ。彩は、私と寧々、麻由美、4人の中で一番頭がいい。そのお陰で、勉強面でも、生活面でも、色々助けられてきた。だからこそ、彼女は、ぶれ難い性格だと思っていた。
 だが、寧々の話を聞く限り、何かしらの原因で、精神的に、追い詰められている可能性がある。それが、何なのか、直接会って、聞いてみないことには、分からない。
 「人間は、悩みを抱える生き物ですからね。周りのからは、大したことない悩みでも、本人からしたら、今後の人生を、大きく変えかねない、内容だったりしますからね…。
 彩夏様も、彼女なりに、悩むことはあるのでしょうから、気長に待つのが、香織様たちの役目ですよ。」
 古川マスターが、優しく、口を挟んだ。その言葉に、寧々が、はっとした様に声を出した。
 「もしかして…。気になる人が、出来たとか?」
 「それは、違うと思います…。
 まぁ、心優しい彼女の事ですから、決して、自分の事だけでは、悩まない筈ですよ。」
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