レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

5-2 虫の知らせ

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 入り口に立っていたのは、黒いベースケースを背負った、少し派手目の女性、寧々だった。
 「み、みず…。」と、呻き声の様な声を上げ、ヨタヨタと、カウンターに近づいてきた。
 私は、急いでお冷を用意し、彼女の前に置いた。寧々は、それを、喉を鳴らしながら、一気に飲み干し、「ぷはぁ~」と爽やかな声を漏らした。
 「砂漠でも歩いてきたんですか?」
 厨房から、氷を手にやってきた、古川マスターが、そう訊ねた。
 「いや~、朝からスタジオ借りて、バンドの練習してたんだけど、飲み物切らしちゃって…。」
 「コンビニとか自販機とか無かったの?」
 彼女のグラスに、氷と水を追加しながら、聞いてみた。
 スタジオが、どこにあるかまでは、分からないが、ここは、駅の近くという事もあり、コンビニや自販機は、所々に点在している。だから、財布が、空っぽでない限り、飲み物くらい、簡単に手に入る。
 「お金は、あるっちゃあるんだけど…。」
 そう言うと、彼女は、ベースケースのポケットから、黒い財布を取り出して、中身を空けた。出てきたのは、一万円札が、一枚と、五千円札が二枚。小銭は、十円玉数枚と、後は、一円玉や五円玉が、いくつか入っている程度だった。
 「なるほど、これでは、自販機で、飲み物を買うことは、出来ませんね…。」
 「そう…。コンビニに寄っても良かったんだけど、それだったら、ここで、お冷、タダで貰った方が、得かなぁと思って…。」
 よく言えば、節約。悪く言えば、がめつい…。その精神、嫌いではないが、寧々じゃなければ、追い出していたかもしれない…。
 「勿論、色々注文するつもりだけど…。今日はちょっと、香織ちゃんに、相談しに来た。」
 「相談?」
 「うん…。でも、その前に。」寧々は、賢太君の方を指差した。
 「あの子、誰?」
 「色々あって、昨日から、ウチの常連になった子。」
 「香織ちゃん、もしかして、ショタコ…。」
 「“最近”、この近くに引っ越してこられた、森永賢太様です。親御さんは、日中は仕事で、居ないらしく、家に居ても、外に出ても、遊び相手の居ないままだと、退屈ですからねぇ…。
 それに、少年一人で、居させるより、ここにいてもらっていた方が、大人の目もありますから、防犯になります。」
 多少食い気味で、古川マスターが、説明した。
 「なるほど…。」
 寧々が、再度、少年の方に目をやると、軽く会釈をした。
 「ご注文は?」
 「水出しで。」
 丁度先ほど、抽出し終わったばかりの、水出しコーヒーを、氷入りのグラスに注ぎ、彼女の前に出した。
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