160 / 309
13章:香織と少年の交換日記
5-2 虫の知らせ
しおりを挟む
入り口に立っていたのは、黒いベースケースを背負った、少し派手目の女性、寧々だった。
「み、みず…。」と、呻き声の様な声を上げ、ヨタヨタと、カウンターに近づいてきた。
私は、急いでお冷を用意し、彼女の前に置いた。寧々は、それを、喉を鳴らしながら、一気に飲み干し、「ぷはぁ~」と爽やかな声を漏らした。
「砂漠でも歩いてきたんですか?」
厨房から、氷を手にやってきた、古川マスターが、そう訊ねた。
「いや~、朝からスタジオ借りて、バンドの練習してたんだけど、飲み物切らしちゃって…。」
「コンビニとか自販機とか無かったの?」
彼女のグラスに、氷と水を追加しながら、聞いてみた。
スタジオが、どこにあるかまでは、分からないが、ここは、駅の近くという事もあり、コンビニや自販機は、所々に点在している。だから、財布が、空っぽでない限り、飲み物くらい、簡単に手に入る。
「お金は、あるっちゃあるんだけど…。」
そう言うと、彼女は、ベースケースのポケットから、黒い財布を取り出して、中身を空けた。出てきたのは、一万円札が、一枚と、五千円札が二枚。小銭は、十円玉数枚と、後は、一円玉や五円玉が、いくつか入っている程度だった。
「なるほど、これでは、自販機で、飲み物を買うことは、出来ませんね…。」
「そう…。コンビニに寄っても良かったんだけど、それだったら、ここで、お冷、タダで貰った方が、得かなぁと思って…。」
よく言えば、節約。悪く言えば、がめつい…。その精神、嫌いではないが、寧々じゃなければ、追い出していたかもしれない…。
「勿論、色々注文するつもりだけど…。今日はちょっと、香織ちゃんに、相談しに来た。」
「相談?」
「うん…。でも、その前に。」寧々は、賢太君の方を指差した。
「あの子、誰?」
「色々あって、昨日から、ウチの常連になった子。」
「香織ちゃん、もしかして、ショタコ…。」
「“最近”、この近くに引っ越してこられた、森永賢太様です。親御さんは、日中は仕事で、居ないらしく、家に居ても、外に出ても、遊び相手の居ないままだと、退屈ですからねぇ…。
それに、少年一人で、居させるより、ここにいてもらっていた方が、大人の目もありますから、防犯になります。」
多少食い気味で、古川マスターが、説明した。
「なるほど…。」
寧々が、再度、少年の方に目をやると、軽く会釈をした。
「ご注文は?」
「水出しで。」
丁度先ほど、抽出し終わったばかりの、水出しコーヒーを、氷入りのグラスに注ぎ、彼女の前に出した。
「み、みず…。」と、呻き声の様な声を上げ、ヨタヨタと、カウンターに近づいてきた。
私は、急いでお冷を用意し、彼女の前に置いた。寧々は、それを、喉を鳴らしながら、一気に飲み干し、「ぷはぁ~」と爽やかな声を漏らした。
「砂漠でも歩いてきたんですか?」
厨房から、氷を手にやってきた、古川マスターが、そう訊ねた。
「いや~、朝からスタジオ借りて、バンドの練習してたんだけど、飲み物切らしちゃって…。」
「コンビニとか自販機とか無かったの?」
彼女のグラスに、氷と水を追加しながら、聞いてみた。
スタジオが、どこにあるかまでは、分からないが、ここは、駅の近くという事もあり、コンビニや自販機は、所々に点在している。だから、財布が、空っぽでない限り、飲み物くらい、簡単に手に入る。
「お金は、あるっちゃあるんだけど…。」
そう言うと、彼女は、ベースケースのポケットから、黒い財布を取り出して、中身を空けた。出てきたのは、一万円札が、一枚と、五千円札が二枚。小銭は、十円玉数枚と、後は、一円玉や五円玉が、いくつか入っている程度だった。
「なるほど、これでは、自販機で、飲み物を買うことは、出来ませんね…。」
「そう…。コンビニに寄っても良かったんだけど、それだったら、ここで、お冷、タダで貰った方が、得かなぁと思って…。」
よく言えば、節約。悪く言えば、がめつい…。その精神、嫌いではないが、寧々じゃなければ、追い出していたかもしれない…。
「勿論、色々注文するつもりだけど…。今日はちょっと、香織ちゃんに、相談しに来た。」
「相談?」
「うん…。でも、その前に。」寧々は、賢太君の方を指差した。
「あの子、誰?」
「色々あって、昨日から、ウチの常連になった子。」
「香織ちゃん、もしかして、ショタコ…。」
「“最近”、この近くに引っ越してこられた、森永賢太様です。親御さんは、日中は仕事で、居ないらしく、家に居ても、外に出ても、遊び相手の居ないままだと、退屈ですからねぇ…。
それに、少年一人で、居させるより、ここにいてもらっていた方が、大人の目もありますから、防犯になります。」
多少食い気味で、古川マスターが、説明した。
「なるほど…。」
寧々が、再度、少年の方に目をやると、軽く会釈をした。
「ご注文は?」
「水出しで。」
丁度先ほど、抽出し終わったばかりの、水出しコーヒーを、氷入りのグラスに注ぎ、彼女の前に出した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害
髙橋朔也
ミステリー
君津静香は八坂中学校校庭にて跋扈する青白い火の玉を目撃した。火の玉の正体の解明を依頼された文芸部は正体を当てるも犯人は特定出来なかった。そして、文芸部の部員がテレパシーに悩まされていた。文芸部がテレパシーについて調べていた矢先、獅子倉が何者かに右膝を殴打された傷害事件が発生。今日も文芸部は休む暇なく働いていた。
※誰も死なないミステリーです。
※本作は『日常探偵団』の続編です。重大なネタバレもあるので未読の方はお気をつけください。
ローズマリーは今日も優雅に紅茶を嗜む(声劇台本用)
ソウル
ミステリー
ローズマリー家は王家の依頼や命令を遂行する名門家
ローズマリー家には奇妙で不気味な事件が舞い降りる
これは、ローズマリー家が華麗に事件を解決する物語
わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に
川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。
もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。
ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。
なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。
リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。
主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。
主な登場人物
ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。
トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。
メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。
カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。
アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。
イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。
パメラ……同。営業アシスタント。
レイチェル・ハリー……同。審査部次長。
エディ・ミケルソン……同。株式部COO。
ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。
ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。
トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。
アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。
マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。
マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。
グレン・スチュアート……マークの息子。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる