レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

4-3 酔わない酒

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 次第に男性は、呂律も回らなくなり、終いには、カウンターに伏せる様に、眠ってしまった。
 「あの…。部長?」
 女性が心配そうに声を掛けたが、返事は無く、いびきだけが聞こえていた。
 「あ…。」
 古川マスターの、間の抜けた声が静かな店内にこだました。
 「出す方、間違えてたかも、しれません…。」
 そう言うと、古川マスターは、女性の前に置かれた、グラスを取り上げ、カウンターの中に収めた。
 そして、男性客の方を横目でチラリと見た後、女性に話しかけた。
 「お帰り下さい。」
 「え?」困惑した顔の、女性に、更に話始めた。
 「息子さん、待っておられるのでしょう?なら、こんなところで、油を売っている場合ではないでしょう?」
 女性客は、はっとした様に、荷物をまとめ、伝票に手を掛けた。だが、古川マスターが、それを、阻止した。
 「お酒も飲んでいない、貴女から、代金を頂く訳には、行きません。」
 「え?」驚いた様な声が響いた。
 「だって、アルコールの匂い…。」
 「貴女が飲んでいたのは、ただのフレーバーサイダーです。頂いたとしても、数十円程度です。」
 女性は、『でも…。』と言いながら、眠っている男性の方を見た…。
 「彼は、私たちに任せて、行ってください。」
 念を押すように、『さぁ。』と促した。女性は、頭を下げ、駆け出すように、店を出て行った。
 
 静かになった、店内には、ジャズの音楽と、男性客のいびきだけが、響いていた。
 「古川さんも、やりますね…。最初からお酒出す気、無かったんですか…。」
 今井さんが感心した様に、訊ねた。
 「客の要望とはいえ、そんな事は、しませんよ。」
 グラスを洗いながら、そう答えた。
 「もう10分後くらいに、起こしてあげましょう。」
 

 『抹茶?』
 電話越しに、きょとんとした声が、返って来た。
 「今日来たお客さんで、ダルゴナコーヒーの抹茶バージョン食べたいって方が居まして。
 コーヒー専門の、ウチでは、どうにもならないので、清水さんにお願いしようかと思いまして。」
 シャワーを浴び終え、自室に入ったタイミングで、清水さんの方から電話が掛かってきた。お中元の、乾燥を聞こうと、電話してきた様だ。
 『抹茶は良いんだけど、ダルゴナコーヒーって、何?』
 「牛乳の上に、泡立てたコーヒーを乗せた、飲み物です。」
 『へ~。そんなのがあるの?』
 「インスタントコーヒーみたいに、溶けやすい粉が一番いいんですけど、そう言うのってありますか?」
 『そうなると、宇治抹茶系かなぁ…。』
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