レトロな事件簿

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
156 / 309
13章:香織と少年の交換日記

4-1 酔わない酒

しおりを挟む
 「珍しいですね…。彰さんも、月島さんも捕まらないなんて…。」
 「ほんとね…。ジン君も来てないし…。」
 賢太君が帰宅して、既に4時間程経っていた。辺りは暗くなり、街の街灯と、建物の灯りが際立っていた。
 レトロの方は、お盆休み明けという事で、社会人は皆、忙しいのか、客足は少なかった。
 そんな中、カウンターに頬杖を突き、力の抜けた様な声を漏らしたのは、今井さんだった。
 九条さんが、昼に宣言した通り、この時間になっても、彼は戻ってくることは無かった。
 こんな事、私がここで働き始めてからは、初めての事だった。
 九条さんが休むことはあっても、彰さんか月島さんが、ヘルプで来てくれるのだが…。
 二人も、用事が入っており、来られないとのことだった。
 そのため、仕方なく、古川マスターがバーテンダーをやってくれている…。
 幸い、先述通り、客が居ない為、こうやって雑談が出来て訳なのだが…。
 こうも、やる事がないと、退屈だった…。
 休憩時間にやろうと思っていた、大学の課題も、終わらせてしまった。だから、暇だ…。

 こういう時、藤吉先生が居てくれれば、多少は話し相手になってくれるのだろうが、祖の彼すら、今日に限って、来店してくれていない…。
 今井さんは、余りの退屈さに、インテリア用に、置かれているマグカップたちの配置を変え始めた。
 古川マスター曰く、置き場所には、これと言った、こだわりは無いらしく、たまに、模様替えをしている。
 私も、何回か、場所を入れ替えた事がある…。
 「今井さんて、グラデーション気にするタイプですか?」
 濃い色と、薄い色を大まかに分けられた、配置を見て、何となくそう思った。
 思い返すと、彼女の自宅もそうだった。特に、ベランダに置かれている、観葉植物たちも、背が高い順に、奥の方に置かれていた。
 「そうだね…。見ていて苦にならない感じにしたいから…。」
 小さい声で、『よし』と呟き、配置替えが完成した。店の奥の方ら、黒や、ガラが付いている物、グレーやブラウン系統の色の物、レジカウンターの方には、白を基調としたマグが、綺麗に並んだ。
 「すっきりしましたね…。」
 今までこそ、特別ごちゃごちゃしていた訳では無いが、統一感が出ると、すっきりした見た目になる。

 その直後、外の方から、声が聞こえた。男性と女性の声の様だ。
 「ここ、前から来てみたかったんだよね。」
 「困ります。息子が家に居るので。」
 「ちょっとだけだから。」
 「私は、飲みませんからね…。」
 そんな感じの会話が聞こえた後、格子戸が、開いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

時計仕掛けの遺言

Arrow
ミステリー
閉ざされた館、嵐の夜、そして一族に課された死の試練―― 山奥の豪邸「クラヴェン館」に集まった一族は、資産家クラレンス・クラヴェンの遺言公開を前に、彼の突然の死に直面する。その死因は毒殺の可能性が高く、一族全員が容疑者となった。 クラレンスの遺言書には、一族の「罪」を暴き出すための複雑な試練が仕掛けられていた。その鍵となるのは、不気味な「時計仕掛けの装置」。遺産を手にするためには、この装置が示す謎を解き、家族の中に潜む犯人を明らかにしなければならない。 名探偵ジュリアン・モークが真相を追う中で暴かれるのは、一族それぞれが隠してきた過去と、クラヴェン家にまつわる恐ろしい秘密。時計が刻む時とともに、一族の絆は崩れ、隠された真実が姿を現す――。 最後に明らかになるのは、犯人か、それともさらなる闇か? 嵐の夜、時計仕掛けが動き出す。

【キャラ文芸大賞 奨励賞】変彩宝石堂の研磨日誌

蒼衣ユイ/広瀬由衣
ミステリー
矢野硝子(しょうこ)の弟が病気で死んだ。 それからほどなくして、硝子の身体から黒い石が溢れ出すようになっていた。 そんなある日、硝子はアレキサンドライトの瞳をした男に出会う。 アレキサンドライトの瞳をした男は言った。 「待っていたよ、アレキサンドライトの姫」 表紙イラスト くりゅうあくあ様

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

cafe&bar Lily 婚活での出会いは運命かそれとも……

Futaba
恋愛
佐藤夢子、29歳。結婚間近と思われていた恋人に突然別れを告げられ、人生のどん底を味わっております。けれどこのままじゃいけないと奮起し、人生初の婚活をすることに決めました。 そうして出会った超絶国宝級イケメン。話も面白いし優しいし私の理想そのもの、もう最高!! これは運命的な出会いで間違いない! ……と思ったら、そう簡単にはいかなかったお話。 ※全3話、小説家になろう様にも同時掲載しております

導かれるモノ導く者

van
ミステリー
小学生の頃の体験から佳文は、見えないモノが見えるようになってしまった… 見えないモノが見えるだけなら良かったのだが、それは…

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

真理の扉を開き、真実を知る 

鏡子 (きょうこ)
ミステリー
隠し事は、もう出来ません。

処理中です...