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13章:香織と少年の交換日記
3-6 交換日記
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少年は、戸惑いつつも、一口頬張った。
「あ、甘い…。」
そう言うと、彼は、スプーンで、ちまちまと、食べ進んで行った。
私も頂いてみたかったが、今は、店のスタッフの一員…。裏メニューとは言え、店の商品を、客と一緒に、頂くわけには行かない。
後で、自分で作るか、またの機会に、古川マスターに作ってもらうことにする…。
「そう言えば、坊主、名前は?」
二代目が、少年に訊ねた。そう、何時までも私たちの中で、“少年”や“坊主”では、心もとない…。
「森永賢太、8歳。」
賢太君は、ダルゴナコーヒーを、ぺろりと平らげ、満足気に応えてくれた。
「ほ~。母ちゃんは仕事、何してるんだ?」
「分からない、毎日パソコン弄ってる…。
おじさん、これ、なんて言う名前だっけ。」
賢太君は、空になったグラスを指差し、古川マスターに訊ねた。
「“ダルゴナコーヒー”です。本来は、お隣、韓国でブームになった飲み物です。コーヒーだけでなく、抹茶や苺、ココアと言った様に、味も変えられるのが、特徴です。」
「へぇ…。今度、抹茶作れる?」
カウンターから、身を乗り出し、古川マスターに食って掛かる様に、訊ねた…。
「残念ながら、私の店はコーヒー専門店ですので、抹茶は置いていないんですよ。」
古川マスターが、そう言い返すと、賢太君は、残念そうに、椅子に腰かけた。
「抹茶、お好きなのですか?」
「母さんが、凄い好きで、食べられれば、喜ぶかなぁと思って…。」
親の為に…。私が彼と同じ年の頃は、そんな事、一度も考えた事無かった。
毎日、どうすれば怒られないか、どうすれば、気にされず過ごせるか、それを、考えながら、生きていた…。
本来なら、彼と、彼の母親の様な暮らしが、世間一般的な、“普通”の過程なのだろう…。
すると、古川マスターが、私の顔をちらりと見た後、口を開いた。
「私の店では、コーヒーしかないので、出せないだけで、素材さえ揃えば、作れなくはないでしょう…。
幸い、このお姉さんのお知り合いに、抹茶に関しての“スペシャリスト”が居るので、打診してみてはどうですか?」
おそらく、清水さんの事だろう…。彼女の事だから、古川マスターであろうと、賢太君だろうと、頼めば、抹茶パウダーくらい、くれそうだが…。
「本当?お姉ちゃん?」
賢太君の期待の眼差しが、少し嬉しかった。今まで、誰かに頼られることが、殆ど無かった。だから、他人に期待されること自体、私にとっては、凄く新鮮で、嬉しい…。
古川マスターもそれが、分かっているのか、敢えて、私を経由させたのだろう…。
「分かった。今日の夕方にでも、聞いてみるね。良い抹茶、手に入るかどうか。」
「あ、甘い…。」
そう言うと、彼は、スプーンで、ちまちまと、食べ進んで行った。
私も頂いてみたかったが、今は、店のスタッフの一員…。裏メニューとは言え、店の商品を、客と一緒に、頂くわけには行かない。
後で、自分で作るか、またの機会に、古川マスターに作ってもらうことにする…。
「そう言えば、坊主、名前は?」
二代目が、少年に訊ねた。そう、何時までも私たちの中で、“少年”や“坊主”では、心もとない…。
「森永賢太、8歳。」
賢太君は、ダルゴナコーヒーを、ぺろりと平らげ、満足気に応えてくれた。
「ほ~。母ちゃんは仕事、何してるんだ?」
「分からない、毎日パソコン弄ってる…。
おじさん、これ、なんて言う名前だっけ。」
賢太君は、空になったグラスを指差し、古川マスターに訊ねた。
「“ダルゴナコーヒー”です。本来は、お隣、韓国でブームになった飲み物です。コーヒーだけでなく、抹茶や苺、ココアと言った様に、味も変えられるのが、特徴です。」
「へぇ…。今度、抹茶作れる?」
カウンターから、身を乗り出し、古川マスターに食って掛かる様に、訊ねた…。
「残念ながら、私の店はコーヒー専門店ですので、抹茶は置いていないんですよ。」
古川マスターが、そう言い返すと、賢太君は、残念そうに、椅子に腰かけた。
「抹茶、お好きなのですか?」
「母さんが、凄い好きで、食べられれば、喜ぶかなぁと思って…。」
親の為に…。私が彼と同じ年の頃は、そんな事、一度も考えた事無かった。
毎日、どうすれば怒られないか、どうすれば、気にされず過ごせるか、それを、考えながら、生きていた…。
本来なら、彼と、彼の母親の様な暮らしが、世間一般的な、“普通”の過程なのだろう…。
すると、古川マスターが、私の顔をちらりと見た後、口を開いた。
「私の店では、コーヒーしかないので、出せないだけで、素材さえ揃えば、作れなくはないでしょう…。
幸い、このお姉さんのお知り合いに、抹茶に関しての“スペシャリスト”が居るので、打診してみてはどうですか?」
おそらく、清水さんの事だろう…。彼女の事だから、古川マスターであろうと、賢太君だろうと、頼めば、抹茶パウダーくらい、くれそうだが…。
「本当?お姉ちゃん?」
賢太君の期待の眼差しが、少し嬉しかった。今まで、誰かに頼られることが、殆ど無かった。だから、他人に期待されること自体、私にとっては、凄く新鮮で、嬉しい…。
古川マスターもそれが、分かっているのか、敢えて、私を経由させたのだろう…。
「分かった。今日の夕方にでも、聞いてみるね。良い抹茶、手に入るかどうか。」
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