レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

2-1 暑中見舞い

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 休憩室の冷蔵庫を開けると、細長い木箱が4つ並んでいた。それぞれには、メモ用紙が貼ってあり、そこに古川マスターの字で、名前が書かれている。
 つまり、今井さんの分入れて、一人ひと箱ずつ…。
 これは少し豪華すぎやしないかと、疑ったが、折角の頂き物。深く考えすぎてはいけない…。
 私は、自分の分の木箱を手に取った。
 「香織様。」
 背後から古川マスターの低い声が聞こえ、危うく木箱を落とす所だった。
 「…びっくりした…。さ、先に休憩いただきます。」
 「驚かせるつもりはありませんでしたが…。
休憩に入るのであれば、こちらをお渡ししておきます。」
古川マスターが、取り出したのは白い、少し厚めの封筒だった。
 「何ですか?それ?」
 「清水様のお中元に同梱されていた物です。
 どうやら香織様宛らしいので、一応預かっておきました。」
 私は封筒を受け取り、宛名を見た。確かに私宛だ。そして、この厚み…。心当たりがあった。
 もう少しかかると思っていたが、こんなに早く出来上がるとは…。
 「何か、大事な物みたいですね。」
 古川マスターが、優しい声で、そう言った。
 「もし差し支えなければ後で、教えて下さ…」
 「写真です。」
 古川マスターが言い切る前に、そう答えた。本当なら、一人で開けて、一人で見るのが、良いのかもしれないが、今の私は少しだけ違った。
 多分、誰かに話を聞いて欲しかったのだろう…。
 「写真…ですか?」
 「はい。この間、清水さんと別れる直前に、お願いしてたんです。」
 近くにあった鋏で、封筒の封を切り、中身を取り出した。
 そこには、綺麗にプリントされた、写真が13枚と便箋が数枚入っていた。
 「私、小さい頃の写真、一枚も持っていなくて…。小学生の時の卒アルも、駄目にしちゃいましたので、私が成長した証も、産まれた証拠もないんです。」
 大人になって、自分の幼い頃の写真を見ることは、殆どないと思う。
 あっても、余り興味を示さないだろう…。
 でも、私は少し違った。
 この間、清水さんの携帯に保存されていた、写真を見たとき、新鮮に感じたと同時に、自分の事が分からない自分が凄く、情けなく思えた。
 幼い頃の記憶が無いにしても、自分の事すら分からない自分が、嫌だった。
 だから、清水さんに、彼女が持っている私の写真を、あるだけ欲しいと、お願いしていた。
 写真を、一枚一枚捲り、それぞれに目を通した。古い携帯のカメラだったためか、少し画質は粗いものの、それでも表情や服の色などは、はっきりと見える。
 だが、殆どは、泣いて居たり、少し愚図っていたりと、余り良い表情はしていない。

 「私、この頃から泣き虫だったんですね…。」
 「それだけ、感情に正直だったという証拠です。」
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